2024年04月29日( 月 )

「偽装一人親方」対策でチェックリストやCCUSの活用推進(前)

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 国土交通省は1月31日、「建設業の一人親方問題に関する検討会」(座長:芝浦工業大学教授・蟹澤宏剛氏)の第7回会合を開催し、規制逃れを目的とした「偽装一人親方」の抑制に向けて官民連携で取り組む内容を全会一致で了承した。2024~25年度に国交省、建設業団体が取り組む内容を23年度内に申し合わせるほか、26年度以降に「適正でない一人親方の目安」を策定する。一人親方のための「働き方自己診断チェックリスト」(以下、チェックリスト)やCCUSの活用を進め、「偽装一人親方」への対策と適正な一人親方と建設会社の適正取引の推進を図る。

2024年問題により「偽装一人親方」増える!?

蟹澤宏剛座長(芝浦工業大学教授)
蟹澤 宏剛 座長
(芝浦工業大学教授)

    蟹澤座長は本会合の冒頭、次の2点を指摘した。まず、専門工事業界にヒアリングした結果、来春の採用は激減するなど、担い手確保が深刻化している点。次に、2024年問題で規制逃れの「偽装一人親方」が増える機運が高まった点だ。「偽装一人親方を多く活用することで時間外労働や残業の割り増し規制を逃れれば、社会保険未加入問題から始まった建設業の健全化や担い手確保に対するここ10年以上の努力が吹き飛ぶ」と危機感をあらわにし、「規制逃れがない仕組みづくりを、検討会でベースをつくっていかなければならない」と続けた。

 国土交通省は2012年度から社会保険加入対策を推進し、加入率は22年度時点では企業単位でほぼ100%、技能者単位では92%と改善が見られている。その一方で、社会保険加入対策や労働関係法令の強化にともない、技能者の一人親方化が観測されている。建設業界でのヒアリングや企業アンケートでも、実態は明らかに雇用労働者であるにもかかわらず、偽装請負の一人親方が一定数存在することがわかった。この規制逃れを目的とした「偽装一人親方」化が進行すれば、技能者の処遇が低下し、法定福利費などを適切に払っていない企業ほど競争的には優位になるという、公正・健全な競争環境の阻害を招く懸念がある。
 そこで「建設業社会保険推進・処遇改善連絡協議会」(現・CCUS処遇改善推進協議会)の下に「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設置し、社会保険加入・働き方改革などの規制逃れを目的とした一人親方化対策などで実効ある施策の検討を開始。学識経験者や建設業団体が一体となって会合が続けられている。

実態は雇用労働者 一人親方の事例も明示

 一人親方化の防止対策では、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を改訂。元請企業に対し、社会保険に未加入である建設企業を下請企業として選定しないよう要請している。

 技能者の働き方が適正かを確認するため、「依頼への諾否」「指揮監督」「拘束性」「代替性」「報酬の労務対償性」「資機材などの負担」「報酬の額」「専属性」の8項目のチェックリストで働き方を確認する。

 処遇改善策では、一人親方に発注する場合、工事費のほか労災特別加入の経費、資機材調達費などの必要経費を適切に反映させた請負代金を支払うよう、元請企業が下請企業に指導する。ガイドラインでは、実態が雇用の一人親方として疑われる事例として、「10代」「経験年数3年未満」「チェックリストにより確認した結果、雇用労働者に当てはまる働き方をしているもの」を提示した。

 この場合では、雇用契約へ誘導し、下請企業に社会保険加入を勧める。ガイドラインでは26年度以降、チェックリストの活用による事務負担の軽減のほか、経験年数が一定未満の技能者が一人親方として扱われている事例などを基に、「適正でない一人親方の目安」を策定することを明記した。そのため、チェックリスト活用の在り方の検討を進め、今年度末までに一定の道筋を示す。

 今年度は初めて、一人親方本人を対象にウェブアンケートを実施(有効回答数1,612件)したほか、建設業許可業者へも継続して社会保険加入と賃金状況について調査した(有効回答数5,926件)。

出典:国土交通省の社会保険の加入および賃金の状況等に関する調査
出典:国土交通省の社会保険の加入および賃金の状況等に関する調査

 ここ5年の建設業者への調査では、約3割が「継続的に従事する一人親方が存在する」と回答。今年度は28.9%で、うち72.3%が工事一式ではなく「労務提供のみ」の発注だった。一人親方本人に対するアンケートでは、10代は約0.4%、経験年数3年未満は2%にとどまった。働き方については、「できれば雇用労働者として働きたい」という回答が6.6%。うち18.7%が一人親方として働く理由として、「取引先から一人親方として働くよう言われているため」と回答した。国交省は、「このあたりが規制逃れとして疑っている部分」と指摘する。

 雇用労働者と比較して、一人親方は報酬が低いという調査結果もある。労災保険の特別加入や資機材の必要経費がかかるため、持ち出しも多い。調査では、66%の建設業者が一人親方と契約する際に、見積もりの提出を求めておらず、契約も書面ではなく口頭で済まされることが多いという。

(つづく)

【長井 雄一朗】

(後)

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