2024年04月30日( 火 )

福岡市は災害安全都市?大規模地震への備え(後)

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 福岡市が行った市政に関する意識調査によると、8割以上の市民が「災害に対して安全」との認識をもっているという。しかし、本当に安全なのだろうか。そこで、大地震発生にあたって市内で起こり得る事態について各種の調査や統計など基に分析し、あるべき備えについて考えてみたい。

高いマンション化率

 話を住宅に戻すと、福岡市において大地震時の住宅被害について考える際、重要となるのが、全国トップの約8割ともいわれる福岡市の高いマンション化率だろう。なかでも懸念されるのが、市の中心部を縦断する警固断層沿いにマンションが密集している点だ。マンションそのものは、耐震・耐火性能などが木造戸建住宅に比べて優れた建物ではある。だが、地震時にはエレベーターが停止し使えなくなる、建物内の送水管・排水管の破損によりトイレなどが使用できなくなる、孤立しても気付かれにくいことなど、特有の問題も抱えている。

福岡市の湾岸部が埋め立てにより広がったことを示す標識(東区東浜付近)
福岡市の湾岸部が埋め立てにより
広がったことを示す標識
(東区東浜付近)

    液状化の問題もある。能登半島沖地震(24年)では震源から遠く離れた新潟県内でも液状化が発生しており、住宅の不同沈下のほか、上下水道の被害が発生している。福岡西方沖地震でも博多湾の沿岸域を中心として、「シーサイドももち」(中央区・早良区、82年から開発)など、主に埋立地で液状化が発生した。94年に開発が始まり、その後、都市機能の充実と居住・滞在人口の増加が著しい「福岡アイランドシティ」(東区)も含め、今後の大地震では湾岸エリアでの液状化被害も懸念されるところだ。

 福岡市は御笠川や那珂川、室見川、樋井川などの土砂で形成された土壌であり、少なくとも江戸時代の前期には現在の大濠公園まで海が迫っていた。つまり、福岡市はかつて海辺だった地域にも広く住宅地や商業地域などが開発されている街なのであり、地震の揺れの伝わり方次第では、そうした地域でも液状化被害がないとは言い切れない危うさがある。

【図2】江戸時代の福岡城下町・博多・近隣古図(出典:九州大学博物館デジタルアーカイブス)
【図2】江戸時代の福岡城下町・博多・近隣古図
(出典:九州大学博物館デジタルアーカイブス)

 大地震、とくに液状化による被害はほかにもある。それは上下水道やガス、電気などインフラへの影響が大きいことだ。能登半島地震ではなかでも水道の復旧に時間がかかり、発災から2カ月以上が経過した今でも復旧していない地域が多いが、そうした状況は福岡市内にあっても起こり得る可能性があるのではないだろうか。また、福岡市内には盛土・切土をした、地震などによる土砂災害が警戒される地域も散見される。万一、それにより道路が寸断されれば、救助や復旧作業に時間を要する、いわゆる「孤立地域」の発生も否定できない。福岡市でも高齢化が著しい地域が散見されるようになっており、復旧・復興のマンパワーが不足するのが常になったなかで、重い足かせになるだろう。

コンパクトシティの弊害

 さらに、あまり考えたくはないが博多湾の直下が大地震の発生源となった場合、その被害は甚大なものになるだろう。ここまで大地震に見舞われた際の福岡市内で懸念される事項をざっと挙げてみたが、そこからは福岡市が災害安全都市ではないことをイメージできるはずである。

 ところで、福岡市は「コンパクトシティ」として知られている。まとまった地域に人口と都市機能が集中しているため、効率の良い行政運営が可能なのが特徴だが、そうした優位性が大規模な災害においては不利に働く可能性もなくはない。とくに最も警戒を要する警固断層を震源とする大地震では、その直上に多くの都市機能が集中していることから、都市機能が一斉に麻痺してしまい、その結果として救助や復旧活動に時間を要すことも考えられるからだ。多くの共同住宅が警固断層上に集中しているのが、不気味なところである。

マンションが建ち並ぶ中央区黒門
マンションが建ち並ぶ中央区黒門

    被害を最小限に食い止め、救助や復旧活動を円滑に行えるようにするためには、自分たちの住み働く地域の災害リスクを知り、非常時にどう行動するかを事前に決めておくなどの「自助」が重要となる。個人においては食料や水の確保も含めた自分や家族の命は自分で守る備え、法人には従業員や顧客を守り、サプライチェーンを維持するなどの実効性のあるBCP策定による備えが求められそうだ。

(了)

【田中 直輝】

(前)

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