「心」の雑学(9)人の評価を左右する「暖かい/冷たい」
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対人印象の2つの要素
新年度が始まり、早いものでもう2カ月が過ぎた。進学や就職、転職などで、この4月から人生の新しいスタートを切った方もいるのではないかと思う。ゴールデンウィークを経て、ようやく新たな環境にも馴染んできたという人もいるだろう。心に多少ゆとりができると、いろいろな物事の見え方も変わってくることはないだろうか。たとえば新しい人間関係。初めて出会ったころから、今ではだいぶ印象が変わったという人はいないだろうか?あるいは、もしかしたら自分も周りの人たちからそのように思われているのかもしれない。さて、私たちの日常のなかで、人の印象とはどのように決まるのだろう?
「外交的」「協調性」「誠実さ」「好奇心」「神経質」など、性格を表す言葉はたくさんあるが、私たちが他者に抱く印象は、これらの特徴を1つひとつ精査してつくりあげられるわけではない。というよりは、これらの要素を総合的にまとめて、1つの大まかなイメージをつくりあげている。具体的には、人は2つの基準から他者の印象を評価しているとされる。1つは暖かさの側面、もう1つは能力の側面である1。
そのため、対人印象を大別すると、(ビジネス的にいえば)人柄が良くて仕事のできる人、人柄は良いが仕事ができない人、人柄は悪いが仕事のできる人、人柄が悪くて仕事のできない人、といったいくつかの典型的なイメージのグループがあることになる。出会った相手の印象が、これらのどのグループに属するかによって、相手に抱く感情や行動も異なる傾向があるとされている 。
さて、ここからが今回の話で重要なのだが、暖かさと能力、どうやらこの2つの要素は、等しく人の印象の形成に寄与しているわけではないらしい。どちらかが対人印象にかなり大きな影響を与えているようである。
中心特性で逆転する人の印象
先ほども少し触れたが、人が他者の印象を形成する際には、多様な情報を統括して大まかな全体像をつくりあげて認知している。この印象形成のプロセスにおいて、Asch(1946)は印象の全体像に対して、とくに強い影響を与える人の特性の存在を仮定し、検討した3。Aschの研究では、実験参加者に「これからある人物の情報を伝える」と話し、「知的な」「器用な」「勤勉な」「決断力のある」「実践的な」「慎重な」といった人の特徴を提示した。その後、参加者はこの人物の印象について、複数の形容詞を用いて評価した。その際、1つの条件ではこれらの特徴に加えて「暖かい」という特徴も一緒に提示し、もう一方の条件では「冷たい」という特徴を一緒に提示した。すると、「暖かい」という情報を提示した条件では、この人物をポジティブに評価する項目が増加していた。「暖かい/冷たい」という特徴以外の情報はまったく同じなのに、この1つの特徴によって総合的な印象が大きく変化してしまっている。このような印象形成の中心的機能をはたす特性は、中心特性と呼ばれている。一方で、この「暖かい/冷たい」の条件を「礼儀正しい/ぶっきらぼう」とした場合には、印象の評価に対して「暖かい/冷たい」ほどの影響をおよぼさないことも明らかにされている。中心特性に対して、こちらは周辺特性と呼ばれる。
従って、人の印象は暖かさと能力の2つの側面から形成されるのだが、その解釈は暖かさの側面にかなり依存しているといえる。同じ仕事ができるという特徴をもった人でも、暖かみがあれば「賢い人」、逆に暖かみがないと「計算高い人」という印象を抱かれてしまうのだ。ちなみに、この「暖かさ」の影響は対人印象の形成だけにとどまらないという報告もある。
Kelley(1950)の研究では、新しいインストラクターの人柄に関する事前情報の一部を、「暖かい/冷たい」というかたちで操作して生徒に伝え、授業の様子を検討した4。なお、事前情報と実際のインストラクターの性格に関連性はない。その結果、Aschの研究と同様に、「暖かい」という情報を提示した場合は、生徒のインストラクターに対する印象がよりポジティブな評価になった。さらに、暖かい人柄という事前情報を伝えられた生徒は、より授業に積極的に参加していたという、行動面への影響も見られたとされている。
第一印象は朗らかに
人の印象判断では、とくに暖かみに関する要素が大きなウェイトを占めているようだ。能力で高い評価を得ていても、暖かみの部分で評価してもらえるかどうかで、その印象には雲泥の差が生まれてくる。逆に、あまり仕事ができなくても、暖かみがある人と認知してもらえると、周りから援助や保護の対象とみなされやすくなる可能性がある2。内集団(身内)は暖かく、外集団(よそ者)は冷たい印象と結びついているとも言われており、暖かみの評価は、人が社会や組織でうまく生き抜くうえでの重要な要因となり得る。第一印象や事前情報がその後の人間関係に影響し得る以上、新しい環境に飛び込む際は、できるだけ自分が冷たい人柄と思われるような振る舞いを避けるよう、意識したほうが良い5。逆に、人事面接など他人を評価する側に回った場合は、他者の評価にはこういったバイアスがあることを加味して、暖かみの要素に引っ張られ過ぎず、慎重に相手の能力の部分も評価してほしい。
処世術的にいえば、暖かみのある人と認知してもらえれば、組織で生きていくうえで得をすることができる。しかしながら、そのようにアドバイスされても、暖かみのある人間とは具体的にどういうものなのか、そのイメージがしにくいというのが困るところだろう。中西・御堂岡(2022)はこの点に着目し、「暖かい/冷たい」以外に中心特性となり得る人の特徴を検討している。その結果、「表情豊かな/無表情な」という特性が、暖かみと類似の効果をもたらしたことを報告している6。意外性はないかもしれないが、やはり愛想良く振る舞うことには、それなりの意味があるようだ。スマイルには0円どころではない価値がある?
1. Fiske, S. T., et al. (2002). A Model of (Often Mixed) Stereotype Content: Competence and Warmth Respectively Follow From Perceived Status and Competition. Journal of Personality and Social Psychology, 82(6), 878-902.
2. Cuddy, A. J. C., et al. (2007). The BIAS map: Behaviors from intergroup affect and stereotypes. Journal of Personality and Social Psychology, 92, 631-648.
3. Asch, S. E. (1946). Forming impressions of personality. Journal of Abnormal and Social Psychology, 41, 258‒290.
4. Kelley, H. H. (1950). The warm-cold variable in first impressions of persons. Journal of Personality, 18, 431-439.
5. といっても、冒頭でも述べたように時間とともに初対面から相手の印象が変わるという経験は誰しもおありだろう。ファーストインプレッションは大まかなイメージでスピーディに形成され、かつ影響力があるのだが、その印象が永遠に保持されるわけではない。最初のイメージにマッチしない例外が出るたびに、印象は少しずつ修正されていくと言われているので、長期にわたる関係であればその点は安心してほしい。
6. 中西大輔・御堂岡春奈 (2022). Asch (1946) の「パーソナリティの印象形成」追試研究 感情心理学研究, 29, 48-57.
<プロフィール>
須藤竜之介(すどう・りゅうのすけ)
1989年東京都生まれ、明治学院大学、九州大学大学院システム生命科学府一貫制博士課程修了(システム生命科学博士)。専門は社会心理学や道徳心理学。環境や文脈が道徳判断に与える影響や、地域文化の持続可能性に関する研究などを行う。現職は宇部フロンティア大学心理学部講師。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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