NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、5月23日付の記事を紹介する。
身近なコンビニの最大手「セブン・イレブン」がカナダのコンビニ大手「クシュタール」から買収攻勢をかけられています。2024年8月に明らかになった買収提案ですが、いまだに激しい攻防戦が展開中です。
実は、2025年4月、経産省は「経済安全保障に関する産業・技術基盤強化アクションプラン再改定にむけて」と題する報告書をまとめました。そこでは経済安全保障に関し、「日本の平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済上の措置を講じて確保することが最重要課題」として定義されており、経産省とすれば、「世界にかけがえのない日本」を維持、発展させる路線を今まで以上に強めること目指しているわけです。
その意味では、日本のコンビニ大手に対するカナダのコンビニ大手からの買収提案が成立するかどうかは、日本の市場の開放度を占う試金石となり得る可能性を秘めています。もし実現すれば、日本企業が海外資本に買収される史上最大級のケースになるはずです。なぜなら、セブン&アイの時価総額(約4.5兆円)を大きく上回る約7兆円での買収提案ですから。
とはいえ、セブン・イレブンのような日本全国に販売網を持つコンビニが外国企業の傘下に入ることについては、官民双方から懸念する意見も出ています。というのも、「災害大国」とも言われる日本にとっては、「消防法」に則り、自家発電を含め、緊急時にコンビニが果たす役割は極めて大きなものがあるからです。
経済産業省は「災害対策基本法」に基づく指定公共機関として、コンビニ大手3社、即ち、セブン・イレブン、ローソン、ファミリーマートを指名しているほどです。災害時においては、政府や地方自治体からの要請に応じて、これらの店舗が緊急支援物資の供給等、生活インフラとして欠かせない役割を担うことが期待されています。
しかも、セブン・イレブンなど日本のコンビニは行政サービスや金融インフラ機能も提供しています。全国の店舗でマイナカードを活用した各種証明書の発行や公共料金の支払い代行も行っており、これらは海外では見られない日本独特のサービスです。
そうした背景もあり、本年1月末の衆議院予算委員会にて、自民党の小野寺五典政調会長はコンビニが外資規制の対象外であることを指摘した上で、石破茂首相と城内実経済安全保障担当大臣に見解を求めました。
石破首相は「どのような情報を保有し、どう守るべきか検討せねばならない」と、相変わらずの意味不明な答弁でしたが、城内大臣は「コンビニは日本社会にとって必要不可欠であり、リスクと対策を検討していく」と明確な答弁。加えて、「コンビニが提供するサービスに含まれる個人情報の流出は経済安保上のリスクに他ならない」とも語り、外資による買収には慎重を期す姿勢を明確にしています。
注目すべきはセブン&アイの2025年2月期連結決算は純利益が2期連続の減益に終わっていることです。同社はクシュタールの買収提案をはねのけ、単独経営路線を維持したい考えのようですが、肝心のコンビニ事業が振るわず視界不良に陥っています。稼ぎ頭だった海外コンビニ事業ですが、物価高の影響で主要顧客の中・低所得者層のコンビニ離れが顕在化し、営業利益は対前年比3割の減少で、国内でも原材料等の高騰で約7%の減収です。
来る5月27日には株主総会が予定されており、スティーブン・ヘイズ・デイカス社外取締役の社長昇格が承認されるかも不安視されています。というのも、株主の米投資ファンドが反対しているためです。デイカス氏は4月9日の記者会見で「難しい状況下でもしっかり成長できる」と収益回復に自信を示しました。しかし、トランプ政権の関税政策の影響で景気の先行きに暗雲が漂う中、波乱含みの展開が想定されています。
一方、南海トラフ巨大地震など自然災害が懸念される昨今、コンビニが果たす災害支援機能の重要性は増すばかりです。そうした日本的なコンビニ文化が海外へ広まるきっかけとなるのか、国際化の流れの中で不採算店舗の切り捨ての対象になるのか、今回の買収提案は経済安全保障政策の観点からも実効性が問われています。
著者:浜田和幸
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