トランプ氏とマスク氏は似た者同士:ケンカも話題作り?

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、7月11日付の記事を紹介する。

ホワイトハウス イメージ    アメリカのトップリーダーたちは「ケンカのフリが板についている」としか言いようがありません。その代表格が現在進行中のトランプ大統領と世界1の大富豪マスク氏の大げさなケンカ劇場でしょう。

 昨日までは「大のツーカー」だったはずの2人ですが、今日になると「顔も見たくない」と大喧嘩。大統領選挙では、トランプ候補に半端ない献金を行い、選挙集会にもしばしば参加し、派手なパフォーマンスで盛り上げたのがマスク氏でした。

 そのお陰で、ホワイトハウスにカムバックできたと言っても過言ではないのがトランプ氏です。当然でしょうが、論功行賞の意味を込めて、トランプ大統領はマスク氏を閣僚並みに処遇し、新設の「政府効率化省」のトップに任命しました。

 史上最悪の財政赤字に陥り、国家破綻もあり得ると危惧されるアメリカ政府の無駄遣い体質にメスを入れると奮闘したのがマスク氏。その結果、多くの政府機関が閉鎖を余儀なくされ、大量の首切りが行われました。

 しかし、航空宇宙局や国防総省から、宇宙ロケット開発や軍事転用可能な先端技術の研究名目で他を圧倒する資金を受け取っていたのがマスク氏。そうした自らの利権には一切手を付けませんでした。まさに、トランプ氏もマスク氏もジコチュー的な言動に関しては「同じ穴の狢」です。

 ところが、「好事魔多し」でしょうか。この2人が大喧嘩の真っ最中。きっかけはトランプ大統領の大型減税措置にマスク氏が嚙みついたこと。「俺がアメリカを再び偉大にする」と自信満々のトランプ氏に「そんなことをすれば、アメリカ経済は崩壊する」と正面から潰しにかかったのがマスク氏。

 すると、トランプ氏は「テスラやスペースXとの契約を解除する」と叫び出し、先に購入した真っ赤なテスラの高級車を「売っぱらう」と息巻く始末です。実際、手放してしまいました。売り言葉に買い言葉。マスク氏も「そんならゴールデンドーム計画にオサラバする」とトランプ大統領のお気に入りの宇宙防衛計画をぶっ潰すと言い出しています。

 加えて、マスク氏は「アメリカ・パーティー」と名付けた新たな政党を立ち上げました。Xで有権者の意向を尋ね、160万人から支持を得たと豪語。来年の中間選挙を視野に入れた動きです。

 曰く「共和党や民主党といった古めかしい2大政党政治では、急激に変化する世界のニーズに対応できない。新たな政党の中心はAI(人工知能)だ。欲に目のくらんだ既存の政治家や政党をぶっ潰す」と宣言。

 その結果、「昨日の友は今日の敵」の通りの展開で、トランプ氏は「マスクは気が狂ったようだ。前からそうした傾向があったが、薬物中毒だろう」と言い出す有様。アメリカという国家を代表する大統領と世界1の大富豪が見苦しいばかりの非難合戦です。

 とはいえ、どこまで本気なのか、疑わしい点も見え隠れしています。トランプ氏もマスク氏も平気で前言を覆すからです。例えば、ロサンゼルスでトランプ政権の移民政策へ反対するデモが過激化し、トランプ大統領が州知事の頭越しに州兵の動員を決めると、マスク氏は「正しい決定だ。不法移民対策はアメリカのために欠かせない」とトランプ支持を打ち出すような軌道修正もしばしば見受けられるからです。

 実は、マスク氏はトランプ大統領の減税政策に反対する際に、禁じ手を繰り出していました。何かと言えば、幼児性愛犯罪で逮捕された末に獄中で不審な死を遂げたエプスタイン氏を巡る裁判資料の中に「トランプ氏が関わっていたことが明示されているため、そのもみ消しに必死になっている」とトランプ批判を繰り出したのです。真相は不明のままですが、エプスタイン氏と親しかったトランプ氏ならあり得る話かも知れません。

 アメリカから法外な「関税」を突き付けられている日本とすれば、トランプ大統領の真意をしっかりと把握しておく必要があります。というのも、トランプ氏は「タリフマン」(関税男)とあだ名で呼ばれていますが、彼の性格を最も正確に表現しているのは「マッドマン」なのです。

 要は、トランプ氏は不動産王と呼ばれていた頃から「予測のできないマッドマン」のフリをし、相手を煙に巻くことで、有利なディール(取り引き)で成功を勝ち取ってきた経験があるからです。今でも、「俺が何を考えているか、分かるか?分からないだろう?俺も分からないから、当然さ」と平気でうそぶいています。アメリカではトランプ大統領の「マッドマン戦略」と命名されているほどです。

 言い換えれば、「勝つことが全て」であり、そのためには「ウソも方便」で「騙された方が愚か」という発想なのです。トランプ氏もマスク氏も「同病相憐れむ」の関係であることは論を待ちません。日本的な「真っ当な考え」や「言行一致」は通じないことを肝に銘じて、こちらもそれ相応のウソやハッタリで臨むことが得策と言えるでしょう。


著者:浜田和幸
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