政治経済学者 植草一秀
霞ヶ関を本拠地とする2つのカルト。ザイム真理教とホウム真理教。ザイム真理教については森永卓郎氏が広く世間にその存在を浸透させた。拙著『財務省と日銀 日本を衰退させたカルトの正体』森永氏への追悼の気持ちを込めてその続編という心境で執筆した。財務省の正体を明らかにしている。
日本をダメにした元凶がもう一つある。ホウム真理教。検察を取り仕切る法務省を頂点とするカルト。日本の警察・検察・裁判所制度の前近代性が問題である。日本の警察・検察・裁判所制度、とりわけ刑事司法に三つの重大な問題がある。第一は警察、検察に不当に巨大な裁量権が付与されていること。第二は基本的人権が侵害されていること。第三は裁判所が政治権力の支配下に置かれていること。警察・検察の不当に巨大な裁量権とは「犯罪が存在するのに犯人を無罪放免にする裁量権」と「犯罪が存在しないのに無実の市民を犯罪者に仕立て上げる裁量権」。
刑事訴訟法248条が諸悪の根源。第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。犯罪が存在しても、検察の一存で犯人を無罪放免にできる。逆に、警察・検察は無実の市民を犯罪者に仕立て上げる裁量権を有している。
何がこの不正を可能にしているのか。それは刑事取り調べが可視化されていないことにある。取り調べは〈密室〉で行われる。この〈密室〉で犯罪が捏造される。犯罪を捏造するのは〈政治目的〉による。政治的な敵対者を犯罪者に仕立て上げるのだ。欧米では”Character Assassination”と表現される。〈人物破壊工作〉である。
警察・検察は〈被害者〉、〈目撃者〉の証言を捏造できる。すべては〈ブラックボックス〉で創作される。被害者とされる人物が警察に何をどのように供述したのか。目撃者とされる人物が警察に何をどのように供述したのか。これが完全に〈ブラックボックス〉となっている。
警察・検察は密室で被害者、目撃者の供述を〈創作〉する。被害者、目撃者は法廷で証言するが、その前に入念な〈舞台稽古〉が実施される。反対尋問があるから〈想定問答〉も入念に用意される。警察・検察が脚本・演出を仕切り、被害者、目撃者が完全な稽古を積んで法廷で証言すると検察支配下にある裁判所は検察の主張を全面的に採用する。こうして〈政治目的〉の〈冤罪〉が創作される。
これを防ぐ最重要の方策は〈完全可視化〉である。「警察官にカメラ装着、8月試行 13都道府県、職質など録画」という記事が配信されている(共同通信)。
「警察庁は24日、ハンズフリーで撮影できる『ウエアラブルカメラ』を警察官が装着し、街頭活動を録画する試験運用を8月下旬から13都道府県警で順次開始すると発表した。カメラは地域、交通、警備の3部門に計約70台配備。職務質問や交通の取り締まり、イベントなどの雑踏警備で使用する。職務の適切性の検証や、警備の指揮に役立て、違反行為や事故の様子が記録されていた場合は証拠としても活用する。」
こんなことよりもはるかに重要なことがある。それは、刑事事件への適用。被疑者、被害者、目撃者など、すべての刑事事件関係者と警察・検察の接触場面のすべてを100%録音・録画して可視化すること。これを実行すると〈密室〉での〈犯罪捏造〉が不可能になる。
警察・検察による〈冤罪捏造〉という〈重大犯罪〉を防ぐためには上記の〈完全可視化〉が必要不可欠。街頭活動ではなく、刑事事件関係者と接触するすべての警察官・検察官に「ウエアラブルカメラ・音声レコーダー」の装着を完全に義務付けるべきだ。
犯罪が存在しないのに警察・検察は犯罪を捏造する。方法はいたって簡単。〈密室〉の取り調べ室で警察・検察が犯罪を捏造する。被害者とされる人物、目撃者とされる人物、現場に居合わせたとされる人物が、警察や検察に何を供述したのかは証拠が残らない。事件を立証できる証言が皆無であることも存在し得る。しかし、警察・検察が犯罪を創作しようとすれば、現行制度では朝飯前だ。警察が犯罪ストーリーを構成して、これを被害者、目撃者、関係者が供述したように調書を作成すればよい。その上で、これら関係者と綿密な打ち合わせとリハーサルを行った上で、法廷で証言させる。こうして犯罪を〈創作〉できる。
しかし、目撃者とされる人物、被害者とされる人物、関係者とされる人物と警察・検察との接触のすべてが可視化されると、冤罪の創作は一気に困難になる。被害者とされる人物、目撃者とされる人物、関係者とされる人物が、最初に自分の言葉で警察や検察に、どう説明したのかに関する〈証拠〉が残る。この〈証拠〉が残ると、この供述と矛盾するストーリーを警察・検察が〈創作〉することが著しく困難になる。これが〈取り調べ過程の可視化〉である。現在の〈可視化〉はくずのようなもの。被疑者供述の一部だけを〈可視化〉するもの。警察・検察に都合の良い部分だけを可視化している。これでは基本的人権が守られない。
刑事訴訟法第一条にはどう規定されているか。第一条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。刑事訴訟法の目的は、刑事事件につき「個人の基本的人権の保障を全うしつつ、」「事案の真相を明らかにし、」「刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現すること」である。
刑事手続きにおいて見落としてならないことは「個人の基本的人権の保障を全うすること」である。取り調べ過程の〈可視化〉がまったく行われていない現状では、上記の手法によって無実の市民が犯罪者に仕立て上げられる。私はその被害者である。このような人権侵害を絶対に認めてはならない。そのために何よりも有効な方法は、〈取り調べ過程の完全可視化〉である。重要なことは被疑者だけでなく、被害者、目撃者、すべての関係者に〈完全可視化〉を適用すること。
刑事訴訟法第336条にはどう規定されているか。第三百三十六条 被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。「被告事件について犯罪の証明がないときは、」「判決で無罪の言渡をしなければならない」と定められている。
〈完全可視化〉第336条の適正適用により冤罪創作を相当程度防止できる。この世でもっとも深刻で卑劣な犯罪は〈冤罪〉。〈魂の殺人〉と呼んでよい。国家にしかできない犯罪、それは戦争と冤罪。後藤昌次郎弁護士が遺された言葉だ。
警察がウエアラブルカメラ装着を始動させると報道されたが、何よりも重要なことは刑事事件捜査手続きに〈ウエアラブルカメラと音声レコーダー〉の完全装着を例外なく義務付けること。この措置によって警察・検察による〈犯罪捏造〉という〈重大な卑劣犯罪〉を防止することが相当程度可能になる。逆に言えば、取り調べ室の〈密室性〉を悪用して警察・検察が〈犯罪を捏造すること〉が横行している現実がある。〈ホウム真理教〉の廃絶が日本のもう一つの最重要課題だ。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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