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2019年07月01日 07:00

「モノ言う株主」の標的になったJR九州の株主総会~自社株買いの株主提案に34%の賛成票(後)

自己株式取得の攻防

 最大の対立点は「自己株式の取得の件」だ。ファーツリー社は、1年以内に、普通株式1,600万株、取得総額720億円の自己株式の取得を提案した。提案の理由はこうだ。

 "JR九州グループの中期経営計画において計画中の不動産案件の説明を行っているものの、資本コストおよび最適な資本構成について説明を行っていません。Fir Treeは、不動産資産を主としつつ、有利子負債のない当社の貸借対照表の構造は非効率であり自己資本利益率(ROE)を下げていると確信します。

 そこで、資本コストを下げ、将来のROEの低下を相殺するため、当社の取締役会が発行済株式の10%を取得することを提案します。自己株式取得は、一株あたりの利益を10%超増加させるのみならず、ROEを12.2%から13.7%まで増加させ、資本コストを減少させます。"

 JR九州の株主提案に反対する理由はこうだ。

 "当社グループは、人口減少をはじめとした事業環境の急激な変化に対応して、企業価値の源泉である鉄道を中心とした持続的なモビリティサービスの構築を図る必要があり、運輸サービスセグメントにおける維持更新投資(安全投資を含む)に加えて成長投資が必要となります。

 さらに、当社グループの企業価値を中長期的に高めるためには不動産・ホテルセグメントにおける熊本駅周辺開発や宮崎駅西口開発に加え、博多駅空中都市構想や長崎駅周辺開発等の将来に向けた投資や既存の駅ビル等への維持投資の資金が必要であります。"

JR九州は鉄道会社か、それとも不動産戸会社か

 争点は、JR九州の不動産・ホテル部門だ。ファーツリー社は、不動産部門で貯め込んだ内部留保を吐き出して株主に還元せよと迫る。JR九州は、駅ビル開発の源泉である不動産部門に手をつけさせないぞ、と突っぱねている構図だ。

 国鉄の分割民営化による発足後、JR九州は、JR北海道、JR四国とともに自力での経営が困難な「3島会社」とされ、国がオンブにダッコした。

 国の依存から脱却するために、JR九州は多角化を進めた。駅ビルやホテル、マンション、外食、小売など鉄道以外の収益基盤を育ててきた。収益の柱に育ったのが、不動産部門だ。

 税制特例措置で優遇されている半官半民のJR九州による駅ビルやマンション進出は、官業による民業浸食だと非難ごうごうだったが、なりふりかまってはおれなかった。

 19年3月期の連結売上高は前期比6%増の4,403億円、営業利益は微減の638億円、純利益は同2%減の492億円。建機販社の子会社化などで売上高は過去最高だったが、鉄道など運輸サービスの減価償却が膨らんだ。

 しっかり稼いだのが駅ビル・不動産事業。売上高は同5%増の726億円、営業利益は同2%増の237億円。全社の営業利益の37%を叩き出している。

JR九州の株主は海外投資家が実質5割を超える

 JR九州は鉄道会社だが、収益構造からみると、デベロッパーが「ポッポ屋」を経営しているというのが実態に近い。JR九州と海外投資家との対立の背景には、この認識の違いがある。

 ファーツリー社の提案には、米国の資産運用会社で、JR九州株の1%を保有するモアブ・キャピタル・パートナーズが支持を表明した。

 また、米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は自社株買いや社外取締役2人の選任などに賛成を推奨。自社株買いは「資本効率の向上につながる」とした。グラスルイスは3人の社外取締役の選任に賛成を推奨した。

 議決権行使助言会社は外国人投資家に影響力をもつ。ISSが推奨した2人は40%台の支持率があったが、推奨しなかった1人への賛成率は24.77%にとどまった。

 JR九州の株主は外国人投資家が多数派を占める。発行済み株式のうち、海外投資家の保有比率は18年3月期末の38.01%から、19年3月期末には44.71%に6.7ポイント増えた。

 これには、株主提案したファーツリー社は含まれていない。JR九州はファーツリー社が株主名簿に記載のない「実質株主」であるため、発言を認めないとしたため、“主役”であるファーツリー社は株主総会を欠席した。

 JR九州の有価証券報告書には、ファーツリー社以外に、変更報告書を提出した夥しい数の「実質株主」の海外投資家が記載されている。ファーツリー社とこれら「実質株主」の海外投資家を合わせた海外投資家の保有比率は軽く5割を超える。彼らは、舌なめずりして、JR九州の内部留保を狙っている。

 海外ファンド勢が、今後、駅ビルを売却して、株主に還元せよと迫るのは確実。「お役所体質」が染みついているJR九州は上場した途端に、「モノ言う株主」に、おいしい果実を吸い取られようとしている。

(了)
【森村 和男】

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