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2019年09月11日 11:38

ゆとり教育抜本見直しに命をかけた20年(6)

筒井 勝美 氏 78歳

 1982年(昭和57年)に始まった「ゆとり教育」は、従来の『努力評価、学力重視型』から180度の転換となった。その結果、大幅な学習内容の削減が行われ、日本人の知力が低下し、教育立国再生の将来に危機が訪れた。しかも国民のほとんどが「ゆとり教育」によって、こんなに学習内容が削減されてきたことを知らされていなかったのだ。

 こうした日本の教育の危機について危惧を抱いていたのは、筒井氏だけではなかった。「算数軽視が学力を崩壊させる」「分数ができない大学生」などの著書がある西村和雄・京都大学教授(当時)や、「科学教育揺るがす改訂指導要領」「日本の理科教育があぶない」などの論文を発表してきた松田良一・東京大学助教授(当時)らが、子どもたちや大学生の学力低下に警鐘を鳴らしてきた。これに対し文部科学省は「義務教育段階や高校教育段階では学力の低下は生じていない」(99年版教育白書)と聞く耳をもたなかった。

 だが筒井氏は、進学塾の現場で長年見聞きしてきた実態とはあまりにもかけ離れており、文科省との闘いは、まだ始まったばかりだという思いだった。

 「理数教育が危ない」を出版した翌年(00)5月、筒井氏は九州大学教育学部内に本部がある「教育と医学の会」の会誌に、進学塾の立場から「教育立国再生へ」と題する提言を寄稿。日本の戦後教育は「ゆとり教育」への転換によって、今や大きな危機に直面していると訴えた。

 日本でも、昔からできる生徒とできない生徒の二極化の傾向はあった。ただ、この現象は一部の層でしか見られなかったのに、ゆとり教育を導入したことで、今や勉強離れが子どもたち全体に拡がっている。

 二極化の実態を分析すると、上位の層は従来通り勉強への意識が高い家庭層であり、塾や予備校で、より高度な指導を受け、下位層は学校教育だけに頼っている場合が多い。このことは厚生労働省の教育支出調査からも窺える。文科省は認めたくないかもしれないが、塾や予備校の支えがあってこそ、小・中学生の平均学力レベルが、国際比較でも今のところ辛うじて維持できているのが現状だ。

 筒井氏は「長い間のゆとり教育で弛緩した教育現場を建て直すには、悠長にやっていては道は険しい。文部科学省が02年から実施しようとしている新学習指導要領は、メンツを捨てて早急に見直すべき」と提言。「科学技術立国ニッポン」再生という、エンジニア出身の筒井氏の熱い思いが行間に滲んでいた。

 そんな中、新学習指導要領実施が発表された。1992年の指導要領と比較して、学習内容がさらに3割削減されるなど、まさに「愚策」と言っても過言ではない内容だった。

 主なものを列記すると、新学習指導要領は最低基準であり、できる子にはその範囲を超える内容の授業を積極的にやる。

 悪平等・一律主義の教育を改め、できる子にも配慮し「20人学級」「習熟度別授業」も活用学力向上に努める。

 私立中学入試の難問自粛要請から、難問出題容認へ改める。

 つまり、進学塾では当たり前にやっている習熟度別授業の導入、悪平等教育からの脱出が取り入れられた内容で、筒井氏をはじめとする「脱ゆとり教育派」が長年主張してきた『学力低下論争』が、文科省の軌道修正に大きく寄与した成果だった。

 文部科学省はその後も、「学びのすすめ」をアピールし、宿題・補習を罪悪視していたことを転換。円周率3.14と台形面積の公式の復活や定められた上限を超えて教えることを可能にする――などを打ち出してきた。

 ただ筒井氏は手放しで喜ぶことはできなかった。「学校週5日制」の完全実施にともない、理数を中心に過去3回にわたって減らされてきた教科内容が、さらに平均で30%以上の削減という点は変わっていなかった。わかりやすくいうと、小・中学校の生徒は、勉強したくても30年前の半分も学習させて貰えない計算になる。

 ゆとり教育の後遺症のひとつとして、ノーベル賞受賞者の受賞対象の研究・論文発表年齢は、30歳前後から40代後半が多いのだが、発表される論文の数は日本だけが下降線を辿っていることが挙げられる。教育内容削減に伴う理数教科の基本学習の広範囲な欠落は、論文数の下降線と決して無縁ではないと筒井氏は見ている。

(つづく)
【本島 洋】

<プロフィール>
筒井 勝美(つつい・かつみ)

 1941年福岡市生まれ。63年、九州大学工学部卒業後、九州松下電器(株)に入社。1979年「九州英才学院」を設立。その後「英進館」と改称。英進館取締役会長のほか、現在公職として国際教育学会(ISE)理事、福岡商工会議所議員、(公社)全国学習塾協会相談役など。2018年に紺綬褒章受章。

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