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2019年09月17日 09:16

ゆとり教育抜本見直しに命をかけた20年(8)

進学塾「英進館」館長/国際教育学会理事/福岡商工会議所議員
筒井 勝美 氏 78歳

 「どうする理数力崩壊」を共同出版した翌年の2005年(平成17年)1月8日、東京大学で「世界の科学教育」のテーマで公開シンポジウムが開かれた。子どもたちの理数離れに危機感を持つ大学教授らでつくる任意団体「高等教育フォーラム」などが主催したもので、義務教育における「ゆとり教育」の欠点や理数系軽視に警鐘を鳴らしてきた。

 このシンポジウムに九州で早くから小中学生の学力低下に懸念の声を上げてきた筒井氏も講師として招かれ、35年前と現在の教科書のページ数や内容の変遷などについて講演を行った。

 英進館に入塾してくる子どもの学力が年々低下していることを示す筒井氏の具体的なデータに、評論家でジャーナリストの立花隆氏は、筒井氏が調べ上げた理数教科内容削減の歴史に大きな驚きを隠せず、「今でも分数を知らない大学生がいる事にがく然となっているのに、それ以上の事態がこれからやってくる」と、ゆとり教育の悪影響に危機感を訴えた。

 また、立花氏と同じく以前から筒井氏と交流があった下村博文文部科学大臣政務官(当時)に出席をお願いした。パネルディスカッションに出席した下村氏も「TIMSS(文科省国際数学・理科教育動向調査)の結果などを受けて、中山成彬文科大臣(当時)が初めて日本の子どもたちの学力低下を認めた昨年は、まさに‟教育ショック″の年だった。子どもたちに必要な知識を教えることが重要で、その中で伸びる子はもっと伸びる環境をつくってあげたい」と語った。

 シンポジウムでは、共著者の西村和雄・京都大学教授(当時)と松田良一・東京大学助教授(当時)も講演を行い、「子どもの学力と個性を伸ばす教育」「理数教育の見直し」が急務という意見が集約され、その後の「ゆとり教育見直し」の動きに大きな影響を与える公開シンポジウムとなった。

 彼が共著で「どうする『理数力』崩壊」を出版した04年(同16年)、英進館は創立25周年を迎えた。生徒数は1万5千人を超えて創業時の1千倍となり、同時に天神本館総本部が完成した。

 37歳で九州松下電器のエンジニアから転身し、試行錯誤しながら英進館を九州で有数の進学塾に成長させてきた彼も還暦を迎えていた。「この業界は若い力でどんどん伸ばすことが必要」と考えていた彼は、思い切って同年11月、35歳の長男・俊英氏に社長をバトンタッチした。俊英氏はいったん英進館に入社後、九州大学医学部第1内科で内科医師をしていた時期もあったが、復帰後は低迷していた合格実績・生徒数を飛躍的に回復させた。

 特に、高等部で東大や九大受験数学を担当し、大学入試の実績を急激に伸ばした。安心して長男に経営を任せられたことで、ますます「ゆとり教育抜本見直し」の闘いに専念出来る環境が整ったのだった。

 05年1月の公開シンポジウムに続いて、筒井氏は7月に福岡市で開かれた中山成彬文科大臣(当時)の教育講演会の前座として招かれ、「ゆとり教育の理数教育に与える弊害」について発表を行った。すると後日、中山大臣から「ゆとり教育について詳しく知りたいので大臣室まで来て欲しい」と手紙が届いた。翌月上京した筒井氏は緊張しながら大臣室に入り、話しだした。

 ▼日本の義務教育の変遷▼学力低下の実態▼理数教科書内容の削減実態▼授業時間数や宿題の国際比較――など詳細な資料を見せて説明した。

 前年、中山大臣は「ゆとり教育」見直しの明確な方針を打ち出してはいたものの、根強い文部官僚の抵抗で現場への浸透には疑問が残っていた。このため筒井氏は「理数教科書の充実」「理数授業時間の増加(週5~6時間)」「全国一斉学力テストの長期継続」などの徹底を申し入れた。その他、▼教育現場での行き過ぎた結果平等・画一主義を改める▼教育の基本は時代がいかに変わろうとも″鉄は熱いうちに打て″▼学習指導要領策定には理工関係者(教育学者、研究者ら)を参加させる――ことなどを強く要望すると、じっくり聞いて頂き感激した。

(つづく)
【本島 洋】

<プロフィール>
筒井 勝美(つつい・かつみ)

 1941年福岡市生まれ。63年、九州大学工学部卒業後、九州松下電器(株)に入社。1979年「九州英才学院」を設立。その後「英進館」と改称。英進館取締役会長のほか、現在公職として国際教育学会(ISE)理事、福岡商工会議所議員、公益社団法人全国学習塾協会相談役等。2018年に紺綬褒章受章

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