2024年04月23日( 火 )

ゆとり教育抜本見直しに命をかけた20年(9)

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進学塾「英進館」館長/国際教育学会理事/福岡商工会議所議員
筒井 勝美 氏 78歳

 筒井氏は2005年(平成17年)の中山成彬文科大臣に対する「ゆとり教育」見直し要望後も、講演や雑誌対談などを通じてゆとり教育の弊害を訴えていた。

 その筒井氏の努力や、学習内容を大幅に削減した前回の学習指導要領(02年度完全実施)が子どもたちの学力低下を招いたという批判の声を背景にゆとり教育から「脱ゆとり教育」へ転換することになった。これを受けて文部科学省は08年(同20年)に脱ゆとり教育に衣替えして学習指導要領の改定を発表した。新しい学習指導要領では、小学校・中学校ともに学習内容増への回帰や授業時間増が実現することになった(小学校は11年度、中学校では12年度完全実施)。

 たとえば小学校の場合、授業時間数は6年間合計で現行より278時間増える。国語、社会、算数、理科、体育が約1割増える一方、02年導入の「総合学習」は3割削減された。また、小学5・6年生では英語も週1回実施されることになり、教科書のページ数は全教科平均で現時点より25%増加。懸案だった全国一斉学力テストも42年ぶりに再開された。ようやく日本の教育が「ゆとり教育見直し」「理数教育の充実」に舵を切り始めたのだ。

 そんな筒井氏の努力が報われる嬉しい知らせが届いた。翌07年4月、日本教育セミナーの「日本教育大賞」に選ばれたのだ。日本教育セミナーは、日本のより良い私教育を考え、実践するという理念のもと結成された私学・私塾の伝統ある団体。受賞理由は、学力低下問題がまだ話題にならない早い時期から警鐘を鳴らして奔走してきた功績が評価されたのだった。

 筒井氏のもとには数多くのお祝いの言葉が寄せられたが、「どうする理数力崩壊」の共著者である西村和雄・元京都大学教授(当時:京大経済研究所所長)の祝辞の一部を紹介する。

 筒井館長は子どもたちの学力の変化に気づくや否や、この問題の危険性に警鐘を鳴らし精力的に活動されたことに尊敬を申し上げます。「ゆとり教育見直し」の運動をしてきた仲間のなかには、『転向』する人もいましたが、筒井勝美館長だけは一貫して活動を続けてこられました。この一貫性こそが、自分のためではなく、世の中のためになされていることの証明です。これからも変わらぬ態度で、我々の先頭に立って活躍してくださることを期待しております。

 筒井氏はこの誇らしい出来事にも、文科省の「ゆとり教育見直し」のポーズはまだまだ油断ができないと感じていた。

 「ゆとり教育」の美名のもとに、欧米と逆行した学歴重視への反発やエリート教育への批判のため勤勉や努力という言葉が消え、教室や図書館から昔読んで発奮した偉人伝などが姿を消した。今や学校は学習の場でなく、カフェテリア化してしまった。
 また、家庭環境によって生じる「教育格差」も大きな問題だ。高学歴・高収入の家庭の子どもは、教育に対する投資が多く、学習機会が増える。一方、教育に対して意識が低く経済的にも苦しい家庭は、子どもの勉強にお金をかけられない。その結果、富裕層と貧困層の間に教育格差が生じ、次の世代へも続くという悪循環が日本では繰り返されているのだ。

(つづく)

【本島 洋】

<プロフィール>
筒井 勝美(つつい・かつみ)

 1941年福岡市生まれ。63年、九州大学工学部卒業後、九州松下電器(株)に入社。1979年「九州英才学院」を設立。その後「英進館」と改称。英進館取締役会長のほか、現在公職として国際教育学会(ISE)理事、福岡商工会議所議員、公益社団法人全国学習塾協会相談役等。2018年に紺綬褒章受章

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