2024年03月28日( 木 )

【八ッ場ダムを考える】完成まで68年八ッ場ダムにおける「闘争」とは(3)

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 「八ッ場(やんば)ダム」は、2009年9月、民主党政権下でダム建設中止が宣言されたことから、一躍全国的に有名となったダムだ。その完成には、1952年の調査開始から2020年の運用開始まで、68年の年月を要した。その原因は、地元住民との合意形成に手間取ったということに尽きる。「東京圏の住民のために、なぜ我々が犠牲にならなければならないのか」という長野原町住民の悲痛な訴えにちゃんと応えることは、それだけ重く、難しいものだったわけだ。ダム建設68年間の歴史では、どのような「闘争」が繰り広げられてきたのか。ダム完成から1年が経とうとしている現在、ダム周辺の住民の暮らしはどうなっているのか。関係者に取材した。

「ダムが最も有利」、事業継続へ

 中止表明の翌年、関東地方整備局は関係地方公共団体からなる検討の場を設置。ダムとダム以外の河川対策を比較検証した結果、洪水調節、利水、流水の各機能を確保するうえで、最も有利な案は、現行の八ッ場ダム案であると結論づけた。政府は中止表明から約2年2カ月後の11年12月、八ッ場ダムの継続方針を決める。そのときの国交相は、前原氏から数えて4人目の前田武志氏だった。

 地元住民は、ダム事業継続に「ホッとした」と振り返る。だが、長野原町や流域6都県にとっては、当然のことに過ぎなかった。むしろ、一連の中止騒動によって、工期がさらに延期されることを懸念していた。受益のタイミングが遅れるのはもちろん、事業費の増大をともなうからだ。

 民主党政権は世論に迎合するかたちで、意気揚々と八ッ場ダム中止を発表したが、ステークホルダーから猛反発を喰らったうえ、肝心の検証の場でもダム建設が妥当だったと評価されてしまうという無様な結果となった。「ダム中止は、ダムの是非を一度検証してみるという点で、意義があった」という声もあるが、中止にともなう時間的、コスト的な代償、国の一方的な方針転換に振り回されたステークホルダーの労力などを考えると、強弁にしか聞こえない。

2年の中止が影響、完成は延期へ

八ツ場ダム(画像提供:国土交通省)

 12年12月、自公連立政権が誕生。13年5月に八ッ場ダムを含む利根川河川整備計画が策定される。6都県は国に対し、当初の15年度の完成を求めていたが、13年11月、関東地方整備局は完成を19年度に延期すると発表した。14年1月、ダム本体工事の入札手続きが再開され、同8月、清水・鉄道・IHIJVが受注。15年1月に工事が始まる。

 19年度完成には、試験湛水期間も含まれるため、実際に本体工事を行う期間は約3年間に過ぎなかった。そこで清水建設JVは、巡航RCD工法を採用。巡航RCD工法は、堤体内部のコンクリートを先行打設し、外部コンクリートを後行打設することで、連続的な施工を可能とする工法。新工法、3D技術などを駆使した結果、19年6月、実質33カ月間の施工で打設を完了させる。

試験湛水中に大雨、一昼夜で満水

 19年10月1日、試験湛水を開始したところ、12日に台風19号が関東地方を直撃。長野原観測所で累計347mm、時間最大37mmの大雨をもたらした。この大雨にともない、八ッ場ダムの水位は約54m上昇し、約7,500万m3の水を貯留した。一昼夜で満水近くまで水を貯留したことになる。これに対し、「八ッ場ダムが下流域の洪水を防いだ」「八ッ場ダム単体の効果は低かった」と賛否の声が挙がった。

 この点、利根川ダム統合管理事務所の職員は「八ッ場ダムは、利根川全体で見れば、治水のパーツの1つでしかない。台風19号では、群馬県西部で大雨が降り、八ッ場ダムの治水効果が発揮されたが、今後も常にそういう降り方をするとは限らない。利根川の治水は、他のダムや堤防、遊水地など流域全体で取り組むことが基本だ」と指摘する。

 20年3月31日、八ッ場ダムが完成。貯水池の名称は「八ッ場あがつま湖」。八ッ場ダムには5,000億円を超える事業費が投入されたが、その多くは、代替地、道路や鉄道、生活再建など関連事業に費やされた。完成、運用開始に際し、相応の規模の式典が予定されていたが、新型コロナウイルスにより延期。八ッ場ダムは4月1日、ひっそりと運用を開始した。

(つづく)

【大石 恭正】

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