2024年03月29日( 金 )

八女木材産業の未来のために、資源としての山林を次世代へ(前)

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八女木材協同組合 理事長/八女林産協同組合 代表理事 諸冨 一文 氏

福岡県を代表する木材の産地・八女

 ――八女木材協同組合と八女林産協同組合の概要をお聞かせください。

八女木材協同組合 理事長/八女林産協同組合 代表理事 諸冨 一文 氏
八女木材協同組合 理事長
八女林産協同組合 代表理事
諸冨 一文 氏

 諸冨 八女木材協同組合は、地元の木材業者約40社からなる協同組合で、組合員のために共同出荷事業、組合員の親睦・情報交換などを行っています。

 一方の八女林産協同組合は、22年前に林野庁の「林業構造改善事業の補助金」を活用して設立した製材工場です。高性能の製材機などを導入し、6社共同で、スギ、ヒノキといった八女産丸太で人工乾燥材(KD材)などの生産を行っています。

 ――福岡に限らず、全国的にも知名度の高い八女林業ですが、供給を支える木材業者の現状はいかがでしょうか。

 諸冨 たとえば、私が経営する(有)諸冨林産興業は、山林経営(植林、間伐、伐採搬出)から製材まで一貫して行うほか、不動産賃貸業、産業廃棄物中間処理・収集運搬も手がけています。木材業者が、本業一本で事業を継続していくことは難しくなっています。

 私の父親たちが現役のころは、木材業の景気も良く、八女の木材業者は好調そのもの。八女商工会議所の会頭や八女青年会議所の理事長などを、木材業者が独占した時代もありました。現在は、多くの組合員が運営する製材工場の設備の更新も進まず、旧態依然として家一軒のすべての部材を細々と製材しているのが現状で、生産性の向上が課題となっています。また、林業分野においても人手不足は課題となっており、人材確保の手段として、林野庁の給付金事業でもある「緑の雇用事業」の活用を積極的に進めており、若い人材の定着、次世代の山林の守り手の育成に注力していきたいと考えています。

 家を新築する際、建築主は地元の工務店や有名なハウスメーカーに依頼します。その際、オーナーさまが「八女産木材を使用したい」といえば、工務店やハウスメーカーは、産地である八女の木材業者に発注します。製造、プレカット、そして発送までをワンストップで依頼するのが効率的だからです。だからこそ、高性能の製材設備を有した八女林産協同組合が重宝されるのです。地域全体で生産性の向上を目指すためにも、唯一の量産工場である八女林産協同組合をぜひ活用してもらえればと思っています。

 現在、プレカット工場は基本的に在庫をもたないようにしているので、木材を供給する側は忙しくなっています。ただ、製材だけでは利益を出しにくいので、副業で稼いでいるという木材業者は珍しくありません。天然乾燥した高品質の木材を製材するなど、手間暇はかかりますが、付加価値の創出は不可欠です。良い木だからといって、そのまま高値で売れるというわけではありません。木材にも、防腐性能の高い保存処理木材のような付加価値が求められています。八女地域では、すでにその取り組みが行われています。

 ――八女産木材の活用は、やはり建設業界で盛んなのでしょうか。

 諸冨 戸建住宅や社寺・仏閣の建築などで利用されることが多いのですが、近年は再生可能エネルギー需要の高まりを受け、バイオマス発電における燃料用木質チップとしての利用が増えています。市内の施設では、「グリーンピア八女」などの温泉施設で利用されています。

八女市星野村の山林
八女市星野村の山林

地産地消の背景に官民の取り組み

 ――八女産木材は、福岡都市圏での利用が最も多いのでしょうか。

 諸冨 福岡都市圏への出荷も多少はありますが、八女市では、八女産木材を使った新築木造住宅に補助金を交付しており、八女市内在住者は50万円、八女市外からの転入者は80万円の補助を受けることができます。こうした取り組みもあり、八女産木材は地元での利用が進んでいます。福岡県でも県産材の利用促進を図るべく、補助金を交付していますので、こうした官主導による取り組みの効果も大きいと思います。

 ――後継者不在の木材業者も少なくないなか、いかに稼げるようにするか、解決策が求められますね。

 諸冨 山林を所有する地元の木材業者などが、後継者不在を理由に手放すケースは増加傾向にあります。購入時からは考えられない安価で驚かされるようですが、大手は好機とばかりに買いの姿勢を強めています。木質チップという燃料としての需要が生まれたことで、これまで木材として価値が付かなかった山林にも価値がもたらされました。伐採して市場などに持ち込んで売ればいいだけなので、手間もかかりません。そういう意味では、費用をかけずに稼げる土壌はでき上がっているのかもしれません。

 一方で、自然災害が頻発するなか、土砂崩れを防ぐためにも、山林の管理には間伐(かんばつ)など山の手入れが欠かせません。こうした山林の手入れが、おざなりになってしまうのではないかと危惧しています。

八女産木材が使用された八女市役所・移住定住支援センター
八女産木材が使用された八女市役所・移住定住支援センター

(つづく)

【聞き手:内山義之/文:代源太朗】

(後)

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