2024年04月26日( 金 )

天神ビジネスセンター竣工に見るこれからの「都市空間」推論(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

レジリエンスの高まり

 世界は、レジリエンス(回復力、復元力、弾性の意)のプロセスに突入している。全産業はパンデミックを克服し、あるいは共生して、新たな価値観の形成と行動様式を醸成する必要があるのだ。業界を越境して物事を考えていくことも大切だ。では、建築においてはどのような思想で臨めばよいか、2つ提案してみたい。

 1つは、レジリエント建築(強靭化も含む、しなやかさの意)に対応したもの。学術的には以下の7点が、都市のレジリエンスを構成する要素とされている。

• Robust (最小限の頑強さ)
• Reflective (省察力)/ Adaptive (適応力)
• Redundant (余剰性)
• Flexible (柔軟性)
• Resourceful (臨機応変力)
• Integrated (統合力)
• Inclusive (包摂力)

   たとえば、水害時に移動できるような建築、ライフラインを自給できるような建物、ヴァナキュラーな(その風土に特有の)建築といったものだろうか。

 もう1つはコレクティブな建築(集合的、組織的な意)。空間や建物の使い方を「多機能化」させる。これまでの建築は、施設とサービスが完全一致していた。映画館は映画を提供する場所、病院は医療を提供する場所といったように、利用者がサービスのために物理的にその施設に足を運んでいたが、今後はそれが分離し、複合化していくようになるのではないか。サービス事業者が店舗や施設を自前で持つ必要性が薄れ、時間ごとにその空間を利用する人が変わってもいいじゃないか、という発想へ転換していく。つまり多機能空間の集積が都市化していくといった感じだ。Airbnbのように、1つの空間を異なる人が時間ごとにそれぞれの目的で利用する、シェアリングエコノミー化も1つの流れだ。

例)コレクティブなコミュニティ形成

  • HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE(2023年完成予定)…スポーツを真ん中に置いて、住空間、商空間、働く場所を増殖させる“野球場から『ボールパーク』へ”の転換。
  • 観光農園…〇〇〇狩り、レストラン、食物販店、キャンプ場などの横展開。
  • 横浜市役所(2025年完成予定)…商業、文化施設、行政機能、オフィス、ホテルを高積化した複合ビル。
  • 無印良品…衣・食・住を1つの世界観で展開するライフスタイルショップ。
  • 新しいかたちの図書館…蔦屋書店、文喫のような本屋と図書館を融合させ、シェアオフィスやカフェを併設させた入場課金制の店舗。
  • ドラッグストア…処方箋を出す薬局、化粧品、生鮮食品の販売と多機能化している。

 オフィスビル、ファッションビル、飲食ビルのように用途別の業態でまとめるのは、実はつくり手側の思考だ。使う側にとってUX、CXが高められた場所を再構成し、レジリエンスな状況をデザインする再編集の作業が、今後求められる建築家の仕事なのではないだろうか。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事