2024年03月30日( 土 )

天神ビジネスセンター竣工に見るこれからの「都市空間」推論(前)

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明治通りの森~アクロス福岡

 福岡は都市公園が多い。広大な敷地を持つ北海道、人口密度の高い東京、神奈川、千葉、大阪に次いで全国第6位の公園数だ(2012年総務省統計)。福岡市内の大きな公園だけでも、国営海の中道海浜公園、大濠公園、舞鶴公園、西公園、南公園、東公園、東平尾公園、天神中央公園、シーサイドももち海浜公園などを数えることができる。延焼防止という防災の観点もあるが、やはり憩いの場としての役割が大きいだろう。のんびり散歩や木陰での休憩、時にはみんなで集まる場所。公園は、季節のうつろいや生命のいぶきを感じながらさまざまな楽しみ方ができる、過去の功労者による都市遺産だ。

 1995年、福岡県庁舎があった天神中央公園の横に、「アクロス福岡」は竣工した。89年にコンペが開催されて最終選考に残ったのが、都市に緑のオープンスペースを提案したエミリオ・アンバース×日本設計×竹中工務店のチームだった。「アクロス山」という自然の山が都市の中心部に置かれることで、天神中央公園の景観を損ねずに増幅させるデザインだった。ステップガーデンを登る山中は、まさに森に囲まれた山路。久しぶりに訪れた秋晴れの9月にはどんぐりが道を敷き詰めていた。地上60mの山頂から下界を臨むと、末広がりに伸びた森林と公園の森とが連続して連なり、一体化したグリーンベルトになっている。

アクロス福岡
アクロス福岡

 竣工当時、筆者は大学の建築学科を目指した高校生で、建築雑誌でアクロス福岡の存在を知るのだが、血気盛んな90年代の建築学生にとって「キラキラしたもの」以外の表層に目がとどまるはずもなく、「何だか異様なものができたな」という印象でしかなかった。しかし、25年余りを経て改めてその地に立ってみたが、年を重ね、経験を積んで練熟された今、感じ方はまったく違っていた。

 公園の真ん中に立って森を臨むと、とても気持ちが良い。風が抜けていく爽快感、葉々がざわめく揺らぎ、日を浴びた木々の高揚感と対照に、その木陰で休む人たち。そこの時流を経て活かされてきた土着性環境と、それを生かし続けた市民の営みに、この街の度量や豊かさを浴びたような感覚だった。25年の間に鳥が種を運び、竣工時は76種・3万7,000本だった植物が、今では120種・5万本になったという。クスやビワなど九州らしい植物が増え、自然の山の環境に年々近づいている。アクロス福岡は木々とともに成長する「有機的な存在」としてここに建っている。

 残念ながら、明治通り側からはその存在を感じることはできないが(初期の案であったように明治通り側に抜ける大きな開口部をつくり、風と人の流れがあればよかったと思うが)、アクロス福岡は明治通りを代表する建築であり、都心の森としてこれからも親しまれていくのだろう。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

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