2024年05月06日( 月 )

国交省が不動産IDルールの検討開始、22年度からの順次運用開始を目指す

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不動産IDで進む他業界とのサービス連携

(一社)不動産テック協会 理事
(株)ライナフ 代表取締役
滝沢 潔 氏

物件情報の透明化に期待

(一社)不動産テック協会 理事/(株)ライナフ 代表取締役 滝沢 潔 氏
(一社)不動産テック協会 理事
(株)ライナフ 代表取締役
滝沢 潔 氏

 不動産の売買では、行政のさまざまな部署が取引に必要な情報を所有しており、不動産事業者がもっているデータも互いに連動していないため、物件調査に1件あたり平均15.5時間がかかっている。そのため、行政が管理している建築確認や建築主、施工者、都市計画などのデータや、民間が管理している家賃や取引価格、売買履歴などのデータを不動産IDルール検討会で整備が進められている「不動産ID」に紐づけて見られるようにすることで、物件調査の手間が減ることが期待される。

 (株)東京カンテイの査定など、マンションの図面や価格、土地や戸建の売買情報など、一部の物件情報は入手できるが、物件情報を他社と共有し連動させるためには2~3カ月がかかり、レインズは流通向けで過去の履歴を調べることはできないため、不動産データの利用には、これまで多くの時間とコストがかかってきた。MLS(米)のように売買履歴や取引価格などの情報を透明化し、物件ごとに紐づけられるよう整備することが必要だ。

 不動産は売買されるごとに管理者が変わるため、中古物件の取引において履歴を入手しにくい修理やリフォームの記録も、不動産IDにより入手しやすくなるだろう。また、売買取引が完了した時点で、不動産IDに紐づいた仲介会社のシステムによってただちに物件が非表示になるため、「おとり物件」も防ぐことができる。加えて、ハザードマップや都市計画の用途地域、空室率の推移、災害の発生率、学区の情報など、仲介事業者が足を使って集めていた物件情報をすぐに入手できるようになる。同じ建物でも番地などの表記が統一されていなかったり、登記の住所に誤字が含まれていたりするトラブルも起こりにくくなるだろう。

 今使われている不動産番号は、建物がブルーマップ上のいずれの地番で登記されているのかわからないため、総務省に電話で確認する必要があることなど、調べる手間がかかりやすい。そのため、独自の「不動産共通ID」を整備している(一社)不動産テック協会では、住所を入力すると不動産テック協会の「不動産共通ID」に加え、政府が整備する登記簿の不動産番号を基にした不動産IDをすぐに表示できるシステムをつくる予定だ。

 一方で、不動産IDの運用にあたって、建築確認を行っておらず住所がない更地や駐車場、同じ地番に複数が建っている戸建などの扱いを決める必要があり、登記簿を調査する予算を国で確保する必要があるなど、実用化に向けた課題は多い。

不動産IDで見込まれる効果

 たとえば、損害保険会社で個別契約ごとに管理している火災保険を、不動産IDを用いて建物や部屋単位などで管理できるようになれば、盗難や火災の頻度などの履歴を用いた査定がしやすくなる。また、金融機関のローン審査では、不動産IDに紐づけた過去や現在の空室率を用いることで審査がスムーズになる。

 (株)ライナフは、ヤマト運輸(株)と提携し、不動産共通IDを用いたデジタルキーでマンションのエントランスのオートロックを解除することで置き配サービスを実現しているが、将来は配達担当者が水道やガス、電気の検針も同時に行うなど、不動産IDの連携により業界を超えたサービスも生まれることが期待される。また、グループ会社間でも不動産IDを用いて物件情報を連携できるようになるため、グループ内のデベロッパーがもつ物件情報を、販売管理や賃貸管理を行うグループ会社が活用できるようになるなどシナジーも生まれるだろう。

 不動産IDは業界内で公開される情報に紐づけられるため、消費者向けには公開されないことが検討されているが、たとえば引っ越しで住民票を移動するときに電気やガス、クレジットカードなどの住所変更も同時にできるなど、消費者向けの新しいサービスが登場すると見込まれる。

(了)

【文・構成:石井 ゆかり】

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