2024年04月26日( 金 )

「業界挙げて職人不足の解消へ」圧接業界の取り組み

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

西日本圧接業協同組合 理事長 松本 一彦 氏

西日本圧接業協同組合
理事長 松本 一彦 氏

縁の下のプロ集団

 ──鉄筋ガス圧接とは、どのようなものでしょうか。

 松本 鉄筋ガス圧接とは、鉄筋を加熱・加圧して鉄の原子を接合させて金属結合する方法のことで、鉄筋ガス圧接による継手は、鉄筋コンクリート構造の建設物には欠かせないものです。人間でいえば、鉄筋は骨、継手は骨をつなぐ関節にあたる、とても重要な工種です。

 ガス圧接の歴史は、旧国鉄のレールを結合する工法として使われたのが始まりです。その原理を基に、旧国鉄技術研究所が構造物への応用を研究し、1952年に旧国鉄渋谷車両基地の土留擁壁工事で鉄筋ガス圧接継手工法が採用されました。これが、国内初となる建設構造物における鉄筋ガス圧接施工です。

 高層ビルや高速道路、鉄道、地下鉄、橋梁など、私たちが暮らしているなかで欠かせない数多くの構造物のなかには、鉄筋が張りめぐらされています。設計通りに正しく組み上げることで、構造物全体の強度、耐久性、耐震性を高めています。こういった見えないところ──つまり“縁の下”で重要な役割をはたしているプロ集団が、ガス圧接工事業の職人たちです。

 (公社)日本鉄筋継手協会の統計によると、建設投資が約82.8兆円とピークに達した96年には、鉄筋継手箇所9,341万のうち、ガス圧接が約93%(8,724万カ所)を占めていました。しかし、建設投資額の減少にともない、鉄筋継手箇所も年々減少していきました。2019年には鉄筋継手箇所4,296万と96年比で約46%にまで減少したほか、そのうちガス圧接が占める比率は71%(3,047万カ所)に減少しています。減少の要因は、近年の構造物の高層化・高度強化によるPC・プレハブ化工法などの多様化などです。また、ガス圧接以外の機械式継手(21%)や溶接継手(8%)も台頭していますので、ガス圧接で培った品質管理を各工法へ展開し、総合鉄筋継手業として取り組んでいます。

積極投資で若手育成

圧接事業 イメージ    ──全国圧接業協同組合連合会(以下、全圧連)について、お聞かせください。

 松本 圧接事業を行う企業数の増加にともない、九州をはじめ関東や関西など各地区に組合組織が設立されていきました。全圧連は77年に設立され、北海道、関東、中日本、関西、西日本の5つの協同組合で構成されています。全国の組合員数は現在108社です。

 構造物を支える鉄筋ガス圧接の仕事は、(公社)日本鉄筋継手協会が実施する技量検定試験に合格した人しか行うことができません。資格は鉄筋径の大きさにより1種から4種に分かれています。資格に応じて作業可能な範囲が異なっており、1種はD25mmまで、4種はD51mmまでの鉄筋圧接を行うことができます(※Dは直径を指し、D25は直径25mmの鉄筋を指す)。3年ごとの資格更新も必要です。現在、全国の有資格者数は2,546名で、ピーク時(96年)の4,816名から約47%減少しており、職人不足が深刻化しています。

 そのようななか、全圧連はとくに技術者教育に注力しています。96年に全国建設産業教育訓練協会へ参画し、富士教育訓練センターで経営者研修・登録基幹技能者講習・新入社員研修など、階層別研修を行い企業体質の強化を図っています。もちろん、私が代表を務めている栄進工業(株)でも、毎年10数名の社員が研修を受けています。費用はかかりますが、人材に対する有意義な投資だと思っています。研修を受けて技術に磨きをかけていけば、より高度な業務ができるようになり、本人たちのやりがいにもつながります。

 ──西日本圧接業協同組合の役割について、聞かせてください。

 松本 西日本圧接業協同組合は、73年ごろに組合員14社で発足しました。岡山県以西の中国、四国、九州、沖縄各県の会員で構成されており、現在の会員数は31社、有資格者は318名です。

 組合の大きな役割の1つは、職人の技術研鑽による品質向上です。同業者間でのガス圧接技術の同一品質の実現を目指し、技能大会や技術講習会を開催しています。あいにく全国大会は廃止されましたが、西日本では引き続き開催しています。近年はコロナ禍で中止を余儀なくされていましたが、今年3月20日には、国土交通省九州地方整備局(以下、九地整)と全圧連の後援を受け、福岡人材開発センター(福岡市)で第8回技能大会を開催しました。会員企業から選抜された9社13名が、ガス圧接の実技と学科試験の総合点で競い合い、優勝したのは前回大会3位の職人で、毎日練習しリベンジをはたされました。非常に喜ばしいことです。

 また、担い手確保も大きな役割の1つです。学校キャラバンを通じて技術を知ってもらおうと、鞍手農業高校や浮羽工業高校でガス圧接のデモンストレーションを行うなど、九地整とも連携して、若年者の採用活動を行っています。また、認定職業訓練や若年者入職促進事業、雇用改善推進および能力開発支援事業を行う「職業訓練法人広島建設アカデミー」(事務局:広島市、訓練校:東広島市) にも参画して広島県立工業高校への出前講座を毎年実施し、雇用の促進を図っており、実際に同校からの入職者も出ています。

【内山 義之】


<プロフィール>
松本 一彦
(まつもと・かずひこ)
1966年1月、熊本県天草市生まれ。84年3月、熊本県立天草高等学校卒業。同年4月、栄進工業(株)に入社。2006年3月に同社統括営業部長、10年3月に専務取締役を歴任し、13年3月に代表取締役に就任。趣味はゴルフと釣り。

  • 1
  • 2

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

法人名

関連記事