2024年05月06日( 月 )

弱みを生かした福岡の都市づくり再考「遅い開発」と中古市場の親和性(2)

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「遅い開発」で地域を拡大しない

 伸び代があっても開発を進めすぎないという「遅い開発」という手法は、周辺都市を含む広域都市圏全体の“持続的な成長”の可能性を高めるかもしれない。都市経営戦略では、「歴史」「文化」などの強みから成長戦略を描くのではなく、弱みをどのようにして強みに変えるか、そのベクトルを考え出すほうに力を注ぐことが効果的なのかもしれない。少なくとも福岡市は、「遅い開発」と独自の弱みを武器に変える戦略で、都市成長を加速させてきたのだ。

 神戸市の取り組みを紹介する。神戸市は20年7月から、中心部の三ノ宮駅周辺の22haで新築を禁止した。元町駅や神戸駅周辺の292haでは、新たに建設する住宅部分の容積率を400%に抑え、実質的にタワーマンションの建設を禁止する条例を制定した。「人口減少で他の都市を出し抜くとか奪い合いをする発想で都市経営はすべきではない」(神戸市長)。タワーマンション開発によって人口増著しい川崎市に、神戸市は人口で抜かれたが、同様の人口競争を続けることから方向転換し、新築抑制の動きを見せている。

“遅い開発”は持続的な成長を支えられるか
“遅い開発”は持続的な成長を支えられるか

福岡市の都市経営

 社会が成熟するなかで、都市は工業で稼ぐところではなくなり、より安全で健康に暮らすところへとシフトしていっている。日本の地方活性化政策では、郊外モール開発や都市部の再開発事業によって、新たな商業施設を積極的に推進している。しかし、出店するテナントは地域外資本ばかりで、地元資本のシェアは下がる一方だ。地域活性化のために行ったはずの事業が、実は地元消費を東京や海外企業へ流しているだけだったというのは、よくある話。気が付けばどこにでもある商業施設になり、そのまちへ訪れる理由を失うことにもなる。

 チェーン店の売上は、仕入れや雇用や再投資などで利益が地元に落ちるのは3~4割程度だが、地元店舗なら6~7割が地元に落ちるといわれている。店舗での雇用は地元民が採用されることはあるものの、本社業務のような都市経済を支えるものはそこに実在せず、大きなお金が地域に落ちない。都市経済で大切なのは地元資本企業が生産性を高め、独自のサービスで地域消費を回すこと。そして余力を活用して地域外への輸出で稼ぐサイクルをつくっていくことだ。そのときに有効になる手段として、「リノベーション」を紹介したい。

地域独自の経済圏はあるか
地域独自の経済圏はあるか

松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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