2024年04月28日( 日 )

艶街千早~艶と顔の見える学びの連鎖を~(3)

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 福岡県は、福岡県立福岡高等技術専門校の跡地について、PPP(公民連携)の一手法である「定期借地方式による土地貸付」による有効活用を図ることとし、公募型プロポーザル方式により民間事業者を再公募した。地の利と場所の文脈、それに相性の良い戦略を、例によってこの場を借りて提案してみたい。

地方集住という可能性

 東京一極集中で「地方消滅」が叫ばれている。政府は過疎地域への移住を推奨し、空き家を安く貸すなどの対応をしているが、こうした過度な人獲り合戦はやめるべきだ。山里に行くと、90代一人暮らしの人だらけという光景が珍しくない。そこに30代の家族が移住したとする。10年後には高齢者が亡くなり、若い移住者だけが残ることになる。「ポツンと1軒家」の状態になるのだ。すると、わざわざ1軒のために、電気やガスや水道を提供しないといけなくなり、他地域のインラフの料金もアップする。実際、2043年には水道代が1.4倍以上になるという予測も出ている。

 しかし、地方移住にも希望や戦法はある。現状の移住政策では一極集中を是正できていないが、「地方集住」というかたちであれば可能性がある。人が住む地域と住まない地域をしっかりした意識の元にマネジメントしていけば、そこには民間事業を残すことができる。最低10万人の商圏を維持できれば、そのエリアは持続可能と言われている。

    人口減少による影響は、しかし生活に欠かせない場所にすでに現れている。「2030年には大型ショッピングモールは維持できなくなる」という説も出てきた。見込んだ客を獲れず、場所によっては閉店の息吹は始まっている。今年だけでも全国で20店以上の大型商業施設が閉店している。想定以上に人口減少が進んでいるのかもしれない。

 日本では2040年ごろから、本格的に人口減少が加速する。人口を増加させることは難しいため、人口減少を前提にどうしていくのかを考えなければいけないが、人口減少時代において、生産性・成長を維持していく継続モデルをつくることが重要になってくる。単なる消費施設をつくればいいという発想は、もはや現代のマインドサイクルに合わない。

 千早は人の集住という点では申し分ないが、今後、人口の単一サイクルではなく複層サイクルを期待するためにも、一斉転入や集中販売で人口を爆発的に増やす戦略は抑えなければならない。人層の高齢化は大津波ではなく、寄せては返す小波のようなサイクルが望ましい。そしてまた、大型で構成する空間体系ではなく、小さな個の集合体を増殖させたい。拡大するまちと一緒に併走していくのにバランスが良いのは、大味な人間関係ではなく、地域でつながる顔の見える小さな人情関係。これこそがまちを存続させる。そこに相性の良い戦略が「人への投資」だろう。

土地の記憶は“学び”

 福岡高等技術専門校(福岡市東区千早4-24-1)は、1952年から現在まで科目を変更しながら時代に即した職業訓練を実施し、今まで2万数千人の技能者を育成している。自動車整備科、プログラム設計科、空調設備科、電気設備科、建築科、デジタルエンジニアリング科、アパレル科などの科目を擁し、就職や就業のための技能を学び、修了生は多方面で活躍している。

 就職するために有利な資格や技能を習得する場所として古くから認知されているこの場所がダウンサイジングされ、一部の敷地が使用されずに残っている。広さにして約1,000坪程度。公共機能としてはあまり広いスペースではないが、駅近の好立地で現在のままの駐車場が続くことは、土地利用としてはもったいないところだ。

 さて、この場所の文脈は“学び”にある。スキルを身につける場という土地の記憶を継承して、「学びを交えた空間」の加算が良さそうだ。その際、高等技術専門校にあるようなハードスキル(主として資格や技能取得を目指す類)を習得する旧来の手法とは別に、昨今ニーズの高まってきている「ソフトスキル」を使ってみたい。

 従来、転職活動においては資格など、明確に評価できる「ハードスキル」が有利とされてきた。しかし、最近では人間性に焦点を当てた「ソフトスキル」が重視されるようになってきている。ソフトスキルとハードスキルの違いは、評価の基準が明確であるかという点で異なる。ビジネスにおけるハードスキルとは、評価基準が明確なスキルのことで、たとえばTOEICのスコアや弁護士・会計士・建築士などの資格、大学や大学院の学位、職業訓練校などで習得する技能などが該当する。一方、ソフトスキルは定性的なスキルで、明確な評価の基準が存在しない。コミュニケーション能力やリーダーシップ、ファシリテーションスキル、問題解決能力など、内面的な性質に根づいたスキルを指す。

 ソフトスキルとハードスキルは、どちらも保有していることが社会人としては理想だ。専門的な知識や技術といったハードスキルは、仕事で成果を上げるため、直接的な武器となるものだが、ハードスキルがいくら高くても、ソフトスキルがないと、成果につなげていくことが難しくなることも多い。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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