2024年04月21日( 日 )

【開催報告】再開発は必然性と物語を残して(前)

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 (株)データ・マックスは3月28日、識者3名をパネリストに迎え、アクロス福岡円形ホールでパネルディスカッションを開催した。テーマは「九州・福岡のあるべきまちづくりを考える~変わる街、変わらない街、そして変えるべき街、変えてはいけない街~」。残すべき町並みと、情報共有の在り方、そして国際社会で勝ち残るために必要なインフラ整備などについて、活発な意見交換が行われた。そのなかでみえてきたのは、まちづくりに求められるのは、流行を取り入れる一過性の計画ではなく、次世代までを見据えた百年の計であるということだった。

仮想空間でまちづくりを試行

 福岡市の中心部では、高さや容積率の制限緩和や、国の金融支援、税制優遇などを呼び水に、老朽化したビルの建替工事が進み、まちの景観は日々変化し続けている。

 一方、熊本県菊陽町では、世界的な半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)とソニーグループによる新工場建設が佳境を迎えている。菊陽町の近隣自治体である合志市や菊池市、大津町を中心に、国内の半導体関連企業が続々と熊本県内への進出を表明しており、熊本は半導体バブルの様相を呈している。中心地となった菊陽町では、町外からの移住者やTSMCからの出向者300名、およびその家族の受け皿となる住宅整備が急ピッチで進められており、こちらも町並みが一変しようとしている。

 福岡市と菊陽町、どちらもまちの新陳代謝が促された格好だが、懸念されるのが、そこに地域固有性は残されるのか、という点だ。また、世界がSDGsの達成を掲げた今、消費エネルギーゼロを目指した規格・ZEB(Net Zero Energy Building)など、建物それ自体にも省エネ・創エネ機能が求められており、環境への配慮は標準化しつつある。ゲリラ豪雨に代表されるように、自然災害が頻発・激甚化するなかで、防災・減災への視点も欠かせない。

 このように、一口にまちづくりと言っても、グランドデザインに組み込むべき要素は多岐にわたるため、官民、業種・業界などの垣根を越えた、縦横無尽な情報共有が重要となる。こうした状況にあって、安浦氏は都市OSについて改めて言及。都市全体を1つのシステムとして捉えたとき、さまざまなシステム情報を統合する、都市のOS(基本ソフト)づくりが要であることを提示した。

(公財)福岡アジア都市研究所 理事長
九州大学名誉教授 安浦 寛人  氏

    「私たちの身の回りには、光や音、温度や速度などを計測する各種センサーが溢れています。センサーを介して多種多様なデータが取得可能になったことで、人流をはじめとする都市の動きというものを、コンピューター上で再現できるようになりました。現実世界の情報を反映させた仮想空間で、ある条件を設定し、何が起きるのかをあらかじめシミュレーションできるのです。たとえば、道路関係データと地図データとを照らし合わせて、信号が変わるタイミングを変更すると、どこで渋滞が発生し、代わりにどこの渋滞が緩和されるのか、などが見えてきます。こうしたシミュレーションの結果を、現実の都市計画に反映させることで、より良いまちづくりにつなげることができるのです」(安浦氏)。

 取得した各種データを集約する、プラットフォームとしての都市OSを仮想空間に形成。最適な輸配送管理の仕組みなどをシミュレーションによって導き出し、実社会にフィードバックする。先行試作を経たうえで現実のまちづくりに着手できることは、リスク低減にもつながる。都市OSにはまちづくりシミュレーターにとどまらず、アプリ開発のための情報の抽象化、災害発生時の群集心理を考慮した避難誘導計画の立案・実行などの役割も期待されている。

 もちろん課題もある。都市OSで得た情報を実社会に落とし込んだ後の情報共有だ。情報は区分ごと(交通、金融、教育など)に分けて、対応する行政担当課や企業などに提供すると、情報提供先の使用するアプリやシステムに互換性がない場合、横軸連携を取ることが難しくなる。たとえば、交通情報アプリの精度向上を目的に取得したデータが、一見交通とは関係なさそうに見える金融アプリで役立つとわかった際に、現状ではデータ共有が容易ではなく、まちづくりの可能性を狭めてしまうのだ。縦割りシステムの統合による情報連携が、都市OSを最大限に生かすためのカギといえる。

歴史的景観を保全・活用する

 効率的なまちづくりの達成に向けて、都市OSの活用が不可欠となるなか、各地方自治体が都市OSの形成と同時に取り組まなければならないのが、地域固有性(町並みや伝統・文化)の保全である。

 各地域に残された景観は、歴史や文化といった無形のものを、目に見えるかたちで表出させた財産であり、観光資源ともいえる。地元民のアイデンティティーの醸成、コミュニティの維持、さらには域外からの交流人口の増加に貢献するものであり、町並みの保全は地域固有性の次世代への継承、新たなビジネスチャンスの創出の観点からも必要といえる。

久留米工業大学 建築・設備工学科
教授 大森 洋子  氏

    「廃れた重工業都市から文化観光都市へ見事に生まれ変わったスペインのビルバオは、地下鉄やトラムなど交通インフラ整備をしつつ、旧市街・新市街の景観を保全し、ネルビオン川沿いの工場跡地に美術館やコンサートホールなどの文化施設を景観に配慮しながら建設して世界中から観光客が訪れるまちになりました。歴史的景観というのは、その地域に生きる人々が生活を営み続けてきた結果、長い年月をかけてつくり上げられてきたものです。つまり景観とは、地域で紡いできたこれまでの歴史や人びとの暮らしぶりなどが、如実に表れたものなのです。しかし、自然だけでも町並みだけでも、その価値を十分に伝えることはできません。自然環境と町並みを、合わせて守っていくことが大切なのです。歴史的景観の保全は、地域住民にとって地域の魅力を再認識し、生まれ育った地域に誇りを持つ機会になります。また、貴重な観光資源として、誘客効果を生みます。歴史的景観を守ることは、地域経済の活性化も視野に入れた、住民主体のまちづくりでもあるのです」(大森氏)。

(つづく)

【代 源太朗】


<プロフィール>

(公財)福岡アジア都市研究所理事長
九州大学名誉教授 安浦 寛人 氏

九州大学教授、理事、副学長を歴任。2011年からは福岡アジア都市研究所の理事長として、福岡市の第9次基本計画の作成などに携わる。

久留米工業大学
建築・設備工学科 教授 大森 洋子 氏

久留米工業大学建築設備工学科助教授を経て、2003年から同科教授を務める。専門分野は歴史を生かしたまちづくり/文化遺産マネージメントと観光まちづくり、建築デザインなど。

(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘 氏

(株)間組(現・(株)安藤・間)の本社九州支店で設計・技術開発・営業を歴任の2019年に、(株)アクロテリオンを設立。建設コンサルタント、まちづくりアドバイザーなどを行う。また、C&C21研究会の事務局長・理事としても福岡のグランドデザイン構想を提言している。

(後)

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