2024年05月02日( 木 )

【続】熊本TSMC進出の波紋とその衝撃(前)

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 2022年9月にNetIB-NEWS上で「熊本TSMC進出の波紋とその衝撃」というタイトルで、半導体工場の建設状況のすさまじさとその影響・課題などについて論じた。そして、その締めくくりには「10年後あるいは20年後、福岡の1人勝ちといわれた時代は終わり、次世代産業の中心として発展する熊本県内の多くの自治体が『住みたい自治体ランキング』上位になっているかもしれない」とも伝えた。それから1年経たずして、また大きな動きが出てきた。TSMCの第二工場建設の発表と、SONYの携帯用半導体新工場の建設発表である。震災復興から九州No.1の都市へ、熊本の快進撃が止まらなくなりそうである。

投資額は10兆円規模? 菊陽・合志に3工場

TSMC(JASM)第1工場建設状況(5月撮影)
TSMC(JASM)第1工場建設状況(5月撮影)

    5月、菊陽町に建設中のTSMC第一工場(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング=JASM)の建設状況を改めて見に行ってみた。そこには、昨年から変わらず遠くからでもすぐわかる十数台のクレーンが立ち並び、アクセス道路の拡幅工事も進められていた。工場建設は、ほぼ全棟の鉄骨が組み上がり、その工場の規模・姿がみえてきた。建設工事現場には日々数千人、多いときで5,000人の建設作業員が出入りしているという。近くに飲食店が立ち並んでいるわけでもないため、コンビニやお弁当屋、そして郊外型スーパーでは、数多くのカップラーメンや弁当が販売されているそうだ。工場は、2024年末には稼働する予定である。

 1月、TSMCが日本に2つ目の工場建設を検討していることを明らかにした。一部報道によると、第二工場の総投資額は第一工場と同規模の約1兆円以上で、熊本県菊陽町付近に建設する方向で調整に入ったともいわれている。これに関して菊陽町の担当者は、「何も決まっていません」と話すが、TSMCは現在建設中の第一工場の近くに第二工場を建設することで、職員の移動や資材の搬出入などメリットも大きいと思われるため、集積する可能性が高く、蒲島知事も期待感を抱いている。

 さらに、TSMCの子会社JASMに出資しているSONYも、同時期にスマートフォンなどの画像センターの生産能力を増強する目的で、25年度ごろの稼働を目指して半導体新工場建設を合志市に検討していることが明らかになった。投資額は数千億円と報じられている。予定地とされる合志市は、建設中のTSMC第一工場が所在する菊陽町に隣接している。

 つまり、これら2工場が完成すれば、TSMC第一工場と合わせて菊陽町と隣接する合志市に大規模な半導体工場が3つ集積することになる。そしてこれら3工場の投資額は合計で約3兆近くに上り、関連企業の進出を含めれば投資額は5兆円~10兆円規模になると予想される。

TSMC進出の余波 企業立地は過去最多に

 熊本市の企業立地件数は、19年度まで横ばい状態であったが、震災復興による熊本城の見学通路が完成した20年度あたりから増加を続け、22年度は製造業が6件、オフィス系が19件の計25件と過去最多を更新している。同様に、熊本県内の立地件数の推移を見ても、ここ数年は過去最多を更新しており、TSMCの進出による影響とみられる。

 さらに熊本市は、半導体関連産業の集積に向けた産業用地整備について、九州自動車道のインターチェンジ周辺と幹線道路沿線の4カ所に工業団地を新たに確保。民間からの事業提案によって整備し、市側は容積率や農地転用などの法的規制を緩和・手続き支援などをするといい、最短で26年度の操業開始を予定している。6月に事業者提案の公募締切を迎えるが、それぞれのエリアで半導体関連企業が応募するであろう。

 一方、熊本県大津町は4月、TSMCの菊陽町進出にともなう関連企業などの受け皿として、TSMC(JASM)の建設地にほど近い、大津町杉水に新たな工業団地を整備することを発表した。敷地面積は約9.7haで、工業団地として約7.9haを分譲する計画。事業費は約15億円を見込む。将来的には敷地約24ha、工業団地約17haへの拡張を検討するという。27年度に分譲開始する予定だ。TSMC新工場の周辺地域である菊池市や合志市、西原村でも、県や地元自治体が新たな工業団地の整備に乗り出し、企業誘致が活発化している。

過去10年間の熊本市の企業立地件数の推移(提供:熊本市)
過去10年間の熊本市の企業立地件数の推移(提供:熊本市)

国内大学の優秀な人材、高待遇で熊本に集中?

 4月3日、TSMC(JASM)が初めての入社式を行った。1期生として今春大学や大学院などを卒業した新入社員125人が採用されたといい、そのうち半数以上が修士号を取得しているという。今後も国内大学の優秀な人材などを積極的に採用し、増やしていく計画だそうだ。

 TSMC(JASM)の従業員は約1,700人、新卒従業員の初任給が28万円だという。22年に厚生労働省が発表したデータによると、大学卒の平均初任給は約23万2,100円である。そして今年の春闘では、大手企業の賃上げ率も平均3.80%引き上げとなり、平均で約24万円になっていると思われる。ユニクロを展開するファーストリテイリングでは、世界基準に合わせて大学卒初任給を25万5,000円から4万5,000円引き上げて30万円にしたという発表があった。

 学生が企業を選ぶ基準は、給与だけではないとしても、1つの大きな要因であることは間違いない。とくに全国の大学理系の学生の間では、TSMC(JASM)への就職を希望している学生が多いという。国内大学の優秀な学生が、毎年採用されて、熊本に集結していく可能性は高いとみられる。もちろんそれは、福岡の大学生も同様だろう。

(つづく)


<プロフィール>
下川 弘
(しもかわ・ひろし)
1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人のGM、本社土木事業本部・九州支店建築営業部・営業部長などを経て、21年11月末に退職。現在は(株)アクロテリオン・代表取締役を務める。ほかにC&C21研究会・理事や久留米工業大学非常勤講師など。

(後)

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