2024年06月23日( 日 )

タワマンという住宅政策を考える【前編】(1)

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    タワーマンション(タワマン)は、一般に20階建以上の鉄筋コンクリート造の集合住宅のことをいう。垂直に空高く伸び、すばらしい眺望を手に入れることができるソレは、日本人を夢中にさせる。タワマンは日本人の新築信仰と、狭い国土によって生み出された現代における「バベルの塔」なのだろうか。

 今回、「新しいグランドデザインの建て付け」第3弾として、ハード政策を取り上げてみたい。環境に負荷をかける建築という構造物と、我々はどう付き合い、使って(もしくはつくって)いけばいいのだろうか。とりわけ“住む”という行為において、「垂直方向=タワマンの風景」と、「水平方向=部屋の間取り」から影響される課題について、考えてみたいと思う。

タワマンは成功の証なのか。

 “幸せの定義は?”の答えに、“タワマン”が入ってくるらしい。現代社会においては、「私生活で人と関わるのが嫌だ」「一緒にいることがストレスだ」と感じる人が一定数いる。ゴミ出し、回覧板、募金などで隣人と接触したくないと苦慮する人が、そういった制約からの解放を求めて「タワマン」へ集結する。挨拶すらもストレスになるため、挨拶禁止が周知されたソレもあるという。実に親切だ。「タワマン」とはつまり、「近隣がない」と同義だといえる。

 豪華絢爛なエントランスと共用通路、華美なシャンデリアや待合のソファもホテルのように行き届いた清掃、フロントカウンターのきちんとした身なりのコンシェルジュ―ひとけが感じられないという静寂にこそ、ここに住む価値がある。これまで「高級住宅地」とは、土地柄や沿線エリアによって区分けされる意味合いだったが、これからは立地ではなく、地上からどれだけ離れているかもその基準になるのだろうか。垂直方向に濃度を増す静寂と沈黙。ことさらタワマンの最上階は、近寄りがたい天上人の住宅街と化している。

 日本では、「タワマンは成功の証」といったイメージが勃興している。そして、そういう高いところにいる人が「実力社会」で勝ち上がった「エリート」とされ、権威や序列が目に見えるかたちで示されるようになった。「階数が高い=購入金額が高い=社会的ステイタスが高い」と捉えることが通説になり、お金持ちが偉いという殺伐とした価値観につながってきている。

 人工的な都市という箱のなかに居続けると、人間の心身は大きなストレスを受ける。昔の都市は水平に広がっていて、外部(自然)との接点は十分にあった。今でも平屋建てが根強く人気なのは、内部と外部を気軽に行き来できるその水平移動にこそ価値があるからだ。今ではその移動は、縦方面に代行される。空間は垂直に拡張し、超高層のオフィスビルやタワーマンションが乱立する都市。自然とは離別しなければならなくなった。“住環境行動学”的にいえば、このような住形態は人を幸福にしているのだろうか、という疑問を感じさせるのだ。

タワマンは成功の証なのか
タワマンは成功の証なのか

タワマンの大規模修繕

 タワマン自体が高額であることはもちろん、構造上の宿命として保全費用も高額である。大規模な修繕工事は、およそ15年サイクルでやってくる。一般的なマンションと同様に、はじめの15年で「シーリング材」というゴム状の緩衝材が劣化してくる。これは主に外壁の躯体と窓サッシの隙間に充填する防水接着材。つまり15年に一度、シーリング材の劣化部分を補修しなければ、そこから雨水などが室内に、もしくは躯体内部へ侵入し、鉄筋を腐食させてくる可能性が高まるのだ。築30年が経つと、今度はエレベーターや給排水管の交換推奨時期がやってくる。1基につき数千万円の費用が想定され、また一度目の修繕ではさほど必要でなかった配管の取り替えも、この時期がふさわしい。

 タワマンの大規模修繕工事は、工法がすべてオーダーメイドだといわれる。ゼネコン各社によっても異なり、同じ施工会社であっても物件によっては工法が違っていたりするのだ。通常のマンションは足場を組んで対応できるが、足場を組めるのは17階あたりまで。タワマンの場合、高いものなら60階にもなるため、屋上のクレーンから作業用のゴンドラを吊るす方法や、壁や柱に線路のようなガードレールを敷設し、そこに作業用ゴンドラを取り付けて上下に移動させるなどの方法が求められる。ただ、一層=1フロア分の作業を終えるのに、1カ月以上かかる場合もある。新築時では1カ月で2層というペースが普通なので、新築時の2倍──つまりタワマンは施工するよりも、外壁を修繕するほうが時間を要するのだ。平準化されていない工法と作業内容で、いまだ施工方法が発展途上の世界だといえる。

大規模修繕工事の様子 株式会社ユニース公式HPより引用
大規模修繕工事の様子
株式会社ユニース公式HPより引用

    また、タワマンの保全に必要な修繕費は、通常の中低層マンションに比べて2倍以上。さらにその額は築年数を重ねるごとに膨らんでいく。費用の面でもスケジュールの面でも、過剰な負担が出てくるのだ。2000年ごろから大量に供給が始まったタワマン群は現在、1回目の大規模修繕時期を迎え、2回目の工事に向けて検討議案が出され始めているころだろうか。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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