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2019年05月17日 07:04

大和ハウス「中興の祖」樋口会長がCEO退任。その功罪を検証する(後)

療養中のオーナーの元に毎月経営報告に訪れる

 樋口武男氏は1938年4月に兵庫県尼崎市で生まれる。61年関西学院学大学卒業。63年に大和ハウス工業に入社した。転機は93年に子会社の大和団地の再建社長に送り込まれたこと。大和団地はバブル崩壊により債務超過寸前に陥っていた。大和ハウスの専務から大和団地への転出を打診されたとき、最初は「勘弁してください」と断ったが、石橋信夫氏は「わしがゼロからつくって上場までさせた大和団地を潰すわけにはいかない」と厳命した。

 2001年4月に大和団地が大和ハウス工業に吸収合併されることになり、樋口氏は合併後の大和ハウス工業の社長に就任した。

 信夫氏は、いったん取締役に退いていたが、その後、代表権をもつ相談役に復帰。病と闘いながら陣頭指揮をとった。脊髄の古傷が悪化し、ほとんどベッドでの生活となった。晩年の4年間、能登・羽咋の山荘で療養生活を送ったが、社長・樋口氏を病床に呼び、経営全般の報告をさせ、事業意欲はいささかも衰えなったという。

 樋口氏は自著『熱湯経営-「大組織病」に勝つ』(文春新書)にこう書いた。

〈オーナーの元に、私は毎月、経営報告に通った。大阪発八時四十二分の特急サンダーバードに乗るのが通例になっていた。十二時十五分に到着し、昼食をともにしたあと、私が用意していた報告をする。
終わると、「よし、これからわし、言うさかいな」と、あらかじめ便箋にびっしり書き込まれた質問事項と意見を、滝のように述べるのだった。私はそれを懸命にメモした。
間質性肺炎のせいで、車椅子で酸素吸入しているときにも、私が行くと吸入器をふり払うようにして語られた。最後の二年ばかりは、(中略)私の報告は筆談だった。〉

 樋口氏は信夫氏に「次の次の社長まで決めてくれ」と言ったと回想している。「樋口クン、もうようわかった。わしは来年春まで生きられへん。わしの眼の黒いうちに外しておきや」。樋口氏など子飼いの役員が非常勤として残していた長男を役員から外すように指示した。信夫氏の死後、長男の信康氏が復帰する芽を断ち切った。

 会社がすべての信夫氏は、息子のせいで会社を潰し、社員やその家族に苦労をかけるわけにはいかない、という強い思いがあった。「泣いて馬謖を斬る」そのものだったと樋口氏は回想している。

 信夫氏は2003年2月に亡くなった。享年81。「社葬はするな。わしは一日たりとも仕事をやめてほしくないんや」。亡くなる10日ほど前に樋口氏にこう遺言した。晩年の信夫氏には鬼気迫るものがあったという。

非住宅に多角化し創業者の遺志「売上高10兆円」を目指す

 創業者の石橋信夫氏は「創業100周年にグループ売り上げ10兆円と語っていた。

 信夫氏の薫陶を受けた樋口氏は、2004年に大和ハウスの会長兼CEOに就き、その目標に向かって邁進する。樋口氏は、信夫氏の遺志を伝える語り部たった。

 「社名から『ハウス』を取ったほうがわかりやすい」――。大和ハウス工業の投資家説明会では、こうした意見がよく飛び出すという。事業領域はハウスメーカーの枠を超えているからだ。

 13年には、準大手ゼネコンのフジタを100%子会社化して、業界を驚かせた。また同年、中堅マンションのコスモスイニシア(旧・リクルートコスモス)を63.1%出資する子会社に組み入れた。ネット通販向け物流施設、ショッピングモールなど商業施設の開発や運営などに拡大した。

 創業事業である戸建住宅(19年3月期売上高3,839億円)は、もはや主力ではない。取って代わるのが、賃貸住宅(同1兆613億円)、商業施設(同6,939億円)、事業施設(同1兆223億円)の3事業だ。

 大和ハウスはハウスメーカーから、街や土地を開発するデベロッパーへと変身している。その転換を主導したのが、樋口武男会長兼CEO。創業者の石橋信夫氏の薫陶を受けた樋口氏は、2001年に社長就任以来、事業の多角化に経営の舵を切った。

 その効果で、急成長を遂げた。だが、急成長の陰で、カバナンス(企業統治)が疎かになっていた。そのことを示す記事を目にした。

 不適切建築は16年12月に発覚した。ところが〈樋口武男会長兼最高経営責任者(CEO)への詳細な報告は公表直前の(19年4月)9日までされず、取締役会で報告されたのは公表前日の11日が初めてだったという。〉(日本経済新聞19年4月16日付朝刊)

 信じられないことだが、経営トップの樋口氏に、その情報は上がっていなかった。

 「中興の祖」と言われた樋口武男氏は“裸の王様”だったのである。

(了)
【森村 和男】

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