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2019年08月27日 11:02

「平成挽歌―いち編集者の懺悔録」(16)

heiseibanka

 オウム事件の話に入る前に、週現時代の私の仕事の仕方について触れておきたい。

 今でも、かつての部員たちに会うと、「あんたの編集長時代は厳しかった」とよくいわれる。

 私には、厳しくしたという意識は毛頭ない。だが、部員たちの意見をあまり聞かず「独断専行型」の編集長だったことは認める。

 部員たちから、その例として出てくるのが宮沢りえと貴花田(後の貴乃花)の婚約破棄騒動のことだ。平成4年秋に電撃婚約した2人だが、翌年早々破局し、りえが一人で会見をした。

 今では、貴花田の両親が、りえは結婚したら芸能界を引退するべきだと主張し、りえママが強硬に反対したためだという「真相」が、貴乃花の口からも語られているが、当時は、早すぎる婚約破棄に様々な噂が飛び交った。

 たしかホテル・ニューオータニだったと記憶しているが、2人だけで話しあって決めたと、りえは会見で語った。涙はなかった。

 私は、この破局の真相を追う記事を出樋一親副編集長に頼んだ。彼を呼び、私は「こういうタイトルの記事をつくりたい」と見せた。

 「宮沢りえ・貴花田破局! 2人きりで語り合ったニューオータニの夜一部始終」

 出樋はそれを見て、「面白いですね」と笑った。「お前さんに頼む。よろしくな」というと、「ええっ、ボクがこれをやるんですか」と驚き呆れた。

 「2人しか知らないことを、どうやって取材しろというのか」、そういいたかったのだろうが、いっても聞くヤツではないと、席へ戻って頭を抱えていた。

 出樋ほどの能力をしても、原稿のデキは酷いものだったが、この号は見込み通り完売した。タイトルの勝利である。その代わり、販売には読者からの苦情の電話が殺到した。

 「タイトルに惹かれて買ったが、何も書いてないじゃないか。詐欺ではないか」

 タイトルがまず決まって、担当者に丸投げした企画で成功した例はもう一つある。

 グラビア担当者に、「二度と見たくないヌード」というのを袋とじでやってくれと、タイトルだけ渡した。困惑した担当者は当然ながら、「どんな人を入れればいいのでしょう」と聞いてくる。

 私は、「人選は君に任せる。よろしく」。ここでは誰が選ばれたかは書かないが、これも発売と同時にほぼ完売した。

 私は毎週、土曜日か日曜日の夜、部屋に閉じこもり、縦横8cmの紙一枚一枚に思いついた企画を書いて、畳の上にばら撒く。もちろん部員からの案も含めて。

 それを上から眺めて、売り物になる右のトップ記事、左のトップ記事、時事ネタ、芸能、スポーツなどを拾い上げ、机の上に右から順に並べていく。

 部員から上がってきたスクープ企画は横に置いておく。スクープはできれば強いが、往々にして、火曜日ぐらいに担当者から、「すいません。今週はできそうもありません」といって来ることが多い。

 それを予定していると、なくなった時の穴埋めが難しい。だから私は、それを当てにしないラインナップづくりを心掛けた。右左のトップ記事の多くは私が考えた。その代わり部員たちには、「毎週スクープを取ろうと考えなくていい。1人が年に1回取ってくればいい」。部員は40人だから、それができれば、ほぼ毎号、スクープが載ることになるが、実際は、そうはいかない。

 私は週現の編集長になった時、部員に一つだけ“宣言”したことがある。入稿、校了日以外は、夕方6時には編集部を出る。よほどの重大なことがない限り戻ってこない。ポケベルは鳴らさず(当時は携帯もあったが、すこぶる感度が悪かった)、次長、副編集長と相談して進めてくれというものである。

 そうしたのには訳がある。私が知る編集長の多くは、酒を呑んで夜遅く編集部に戻ってきた。そのまま長イスに転がって眠ってしまう者も多かった。酔ったまま支離滅裂な指示をするのもいた。そんな連中は編集部員にとって迷惑以外の何物でもない。

 そんな連中に、私は腹の中で「役立たずの酔っ払い」と毒づいていた。自分はそうはなりたくなかった。

 6時に出るのは、会食を約束している相手と会う前に少し時間ができるからだ。編集部にいる限り一人になるのはトイレに入る時ぐらい。

 待ち合わせている店の近くでタクシーを降り、喫茶店に飛び込んで、進行中の企画のことや懸案事項について考える。たとえわずかでも、独りで考える時間が大切だと思ったからだ。

 5時過ぎになると、私の席の前には行列ができた。取材でいない人間には、200字詰めの原稿用紙に赤いサインペンで大きく、タイトル案、1章から4章までのコンテ、追加の取材先などを書いて、その人間の机の上に貼っておいた。

 入稿日も、午前2時か3時頃には編集部を出て帰宅した。原稿が遅い部員には、朝8時に自宅のFAXに送ってくれといってある。そのために、当時としては高性能のFAXを寝床の横に設置した。

 8時になると大量のFAX用紙が吐き出されてくる。それを次々に読んでは直しを入れ、注意点を書き込む。一番悩むのは、箸にも棒にもかからない原稿である。書き直し、場合によっては、取材をやり直さなくてはならない原稿がある。だが、これから始めれば原稿にまとまるのは夜遅くになり、ゲラが出て校了するのは朝になる。酒も呑めない。

 この怒りを相手に分からせるには簡潔に限る。「原稿ダメ。取材やり直し!」。編集部で私のチェックを待っていた部員は真っ青になる。あわてて記者たちを叩き起こし、取材先を指示し、アンカーの手配をする。

 多い週はそうした原稿が2、3本ある。昼頃、編集部に顔を出すと、あちこちで編集者と記者が集まっていて、私を見て恨めしそうな顔をする。長い一日が始まるのだが、ちょっとした快感ではあった。

heiseibanka

 さて、オウム真理教の話に戻そう。平成6年に起きた「松本サリン事件」は、オウム真理教がやったという疑いが強まってきた。そんな中、平成7年3月20日に日本の歴史上最悪の無差別テロ「地下鉄サリン事件」が起こるのである。

 丸ノ内線、日比谷線、千代田線の地下鉄車内で、神経ガス・サリンが撒かれ、乗客や駅員13人が死亡し、負傷者は6,300人にのぼった。

 事件から2日後の3月22日、警視庁はオウム真理教に対する強制捜査を実施し、オウムが事件に関与していると断定した。

 教団幹部・林郁夫の逮捕、自供により事件の全容が明らかになり、5月16日に教祖の麻原彰晃を逮捕したのである。

 週刊誌にとってオウム真理教事件ほど興味をそそられる事件はなかった。国民の関心も高かった、だが、首謀者の麻原をはじめとするオウム幹部たちの多くが逮捕されてしまったため、手に入る情報が極めて少なくなってしまった。

 そのため捜査当局の情報を当てにする新聞、テレビは困っていたが、ハナから警察情報などあてにしない週刊誌には、不謹慎ないい方になるが、絶好の事件であった。

 私はこの事件を担当する編集部員たちに、こういった。

 「少ない断片情報を組み合わせて、彼らが何をしようとしていたのか、なぜ北朝鮮やソ連(当時)まで行ったのかを“推理”してくれ」

 私は推理小説が好きだ。一見無関係と思われる断片情報をつなぎ合わせて謎を解明していく手法は、週刊誌と同じである。

 オウムはソ連から武器を購入し、潜水艦まで買おうとしていたと報じた。私もやや荒唐無稽な話かなと考えたが、後から、麻原は武装蜂起を考えていたという捜査当局からの情報が流れてきて、驚いたことがあった。

 週現が放ったスクープは2本ある。1本は坂本堤弁護士一家誘拐殺人事件の実行犯の一人、岡崎一明の告白である。

 武田頼政記者が、こういってきた。

 「元教団幹部の岡崎と接触することできました。手記が取れるかもしれません」

 岡崎は、昭和60年(1985年)にオウム真理教の前身「オウム神仙の会」に入会している。平成元年(1989年)にオウムは宗教法人として認証されるが、その後、岡崎はなぜかオウムを脱会して、故郷の山口県宇部市に戻っていた。

 オウム黎明期からの幹部がなぜ脱会したのか? 何かある。そう考えた武田記者は、岡崎と接触するため宇部市に足繁く通った。

 昨年の週刊文春(7/19号)で、武田記者がその当時のことを手記にしている。

「当初は私への警戒心もあり、坂本一家殺害事件の現場にいたとは認めていなかった。だが、関係が深まったある時、私の自宅への電話口で、突然打ち明けた。

 『わしもその場にいたんじゃ』」

 当時、警察の監視下にあった岡崎と深夜のファミレスで会い、テープを回す。

 岡崎は、昭和64年(1989年)11月4日早朝、オウム批判の急先鋒だった坂本弁護士を「ポア(殺害)」するために、新實智光、早川紀代秀、村井秀夫ら5人とともに坂本家に向かった。

 殺害の様子、その後、遺体を乗せたクルマを走らせ、埋めるための場所探しなど、生々しい話を武田記者に語ったが、自分は運転手と見張り役だったといった。

 岡崎はカネに執着する人間だった。麻原のところから出ていくときも、2億円ものオウムの選挙資金の入っている通帳を持って逃げたそうだが、オウム幹部に奪い返されていた。

 その後も麻原に、坂本一家殺害のことをばらすと脅して1,000万近いカネを脅し取ったといわれる。

 岡崎の取材経過について武田と編集者が報告に来た時、「岡崎がカネを欲しがっている」と私に伝えた。

 記憶が定かではないが、たしか要求額は1,000万円だったと思う。カネを払うことに躊躇いはなかった。そこにスクープがあれば、殺人者であろうとヤクザであろうと、カネは払う。

 そんなことをすれば世間の良識派が眉を顰めるなどと微塵も考えはしない。スクープの為なら刑務所の塀の内側に落ちても悔いはない。それが嫌なら、こんな因果な商売を選ばないことだ。

 私が『週刊誌編集長』(展望社)という本を出した時、田原総一朗は帯にこう書いてくれた。

 「元木昌彦は、日本で一番危険な編集者である」

 当時は、週現一誌だけで年間20億円ぐらいの利益は出していたと思う。一番難しいのは、犯罪者に大金を渡すことではない。岡崎が語ったことが事実かそうでないのか、判断を下すことであった。

heiseibanka

 2人には、時間がいくらかかっても構わないから、岡崎が証言している3カ所の埋葬場所、そこまでの走行距離と時間、当時の天候など、あらゆる裏取りをしろと命じた。

 本心では「掘り起こせ」といいたかった。そうしなければ決定的な確証は得られない。だが、私もそこまで指示する勇気はなかった。

 数週間後、「岡崎の話に矛盾はない」という報告が来た。決断した。カネは岡崎からの要求で、別の人間の口座に振り込んだ。彼の妻に渡したいといっていたのではなかったか。

 取材源を秘匿するため、手記には岡崎の名前は使わず仮名にした。

 平成7年夏の合併号に、「完全独白 決定的スクープ 実行犯が全てを語った! 坂本一家殺人事件」というタイトルで掲載された。

 新聞も取れなかった大スクープである。だが、間違っていれば、三文週刊誌がスクープを焦ってガセネタをつかまされたと嘲笑される。

 事実、ワイドショーのコメンテーターたちが、「こんなものウソに決まっている。殺人犯が喋るわけはない」と何度も“寝言”を繰り返した。新聞は不気味に沈黙していた。

 文春の武田記者によると、週現発売後の9月6日、「岡崎は坂本弁護士の遺体捜索現場に立ち会い、遺体発見直後、神奈川県警・警視庁の合同捜査本部に逮捕された」。しかも、警視庁と検察庁の取り調べに、見張り役で犯行現場にはいなかったと話していた岡崎が、

 「私は、坂本弁護士の背後から、右手を前首に回して、確かパジャマみたいな寝間着の左奥襟を掴んで絞めました」
と、自分が坂本弁護士を手に掛けたことを自白したのである。

 岡崎は平成10年の一審判決で死刑をいい渡され、平成17年に死刑が確定している。

 岡崎は麻原についてこういっていたという。

 「単細胞で相手を信用しない。自分以外の人間は自分の下じゃなきゃダメ。あんなの殺さなきゃいけないんだ」

 平成30年7月6日、麻原彰晃(本名・松本智津夫)の死刑が執行された。「麻原より先に死にたくない」といっていた岡崎は、7月26日に死刑が執行された。

(文中敬称略=続く)

<プロフィール>
元木 昌彦(もとき・まさひこ)

ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。
現在は『インターネット報道協会』代表理事。元上智大学、明治学院大学、大正大学などで非常勤講師。
主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

連載
J-CASTの元木昌彦の深読み週刊誌
プレジデント・オンライン
『エルネオス』メディアを考える旅
『マガジンX』元木昌彦の一刀両断
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