2024年04月25日( 木 )

何年かかってでも責任を追及していく~久留米・指ペンチ事件(後)

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芯鋭法律事務所   弁護士 小山一郎氏
佐賀中央法律事務所 弁護士 古賀大輝氏

反省の色が見られない野崎被告人の供述

 ――刑事事件の裁判における野崎被告人の様子などはいかがでしたか。

 小山 古賀弁護士と交代で刑事事件の裁判の傍聴に行っておりました。私が傍聴にうかがった時、たまたま野崎被告人の証人尋問が行われておりましたが、その際の検察官とのやり取りは一言でいえば、「不合理な供述に終始していた」としか思えないものでした。

 まず野崎被告人は、刑事裁判のはじめの時点では暴行の事実を全面否認していました。しかし、暴行の証拠としてビデオ動画の映像が出てくると、彼は「ビデオに映っている部分は本当です」と主張を変え、供述を改めました。

 こういう状況で証人尋問が始まったわけですが、検察官が「この動画に映っている以外で暴行の事実はありませんでしたか?」と聞くと、彼は「ありません」と答えていました。検察官が「では、5回映っていたら、5回しか暴行はやっていないのですね?」と聞くと、彼は「そうです」と答えていました。これでは、とても反省しているようには思えません。

 こういう場に出くわすと、どんな人間であれ、「家族に申し訳ない」「被害者に申し訳ない」という2つの気持ちが働くと思います。しかし彼の場合、家族に対する申し訳ないという気持ちは多少あるかもしれませんが、供述では、「Nさんや従業員が嘘をついている」などとも言っておりましたし、おおよそNさんに対する申し訳ないという気持ちは、微塵も感じられませんでした。

 ――第一審の判決に対して野崎被告人はいったん控訴してから取り下げています。この意図は何が考えられますか。

 小山 今後の方針を決める為にいったん控訴したものと思われます。また、示談に持ち込むことによって執行猶予付きの判決に持ち込みたいという考えもあったと思われます。

 実際、一審の時に野崎被告人側から示談交渉はありました。しかし、その際提示された金額は、暴行事件という扱いで考えているためか、こちらの要望している金額と開きがありました。そこで、傷害については後日民事事件で争うとして、いったん刑事事件の対象になっている暴行だけ示談するという提案もしましたが、野崎被告人の弁護人からは「全体として暴行だけという示談でしかありえない。なぜなら立件されている暴行以外には何もしていないから」という回答でした。

 控訴審の前にも野崎被告人の弁護人から示談の問い合わせがありましたが、当方のスタンスは前回から変わらない旨を伝えたところ、問い合わせはあっさり撤回されました。結果、野崎被告人は控訴を取り下げたと思われます。

動向が注目される民事裁判の行方

 ――現在進めている手続きについて教えてください。

 小山 先行して、残業代請求の裁判をスタートさせております。しかし福子建設側からは、「残業はさせていない」として、逆に残業していたことを証明するよう求められました。こちらにも当然、立証責任はありますので、残業については今後あらゆる手段を講じて立証していきます。

 古賀 悪質な会社はたとえば残業代については記録を残しておりませんし、さらには雇用契約書すらも交わしておりません。福子建設もそれに近い状況と考えられます。

 適切に労務管理できていないことからそれを立証できず、労働者が泣き寝入りするか、裁判に持ち込んだとしても証拠が弱ければ認められないというケースもあります。

 小山 刑事事件の結果を踏まえ、労災申請の手続きも進めています。早速、相手側の弁護士を通じて福子建設に協力を依頼しましたが、福子建設側からは「一切協力しません」という返事が返ってきました。なぜならば「そんな事実はないから」とのことだそうです。今回の事件は事務所内での上司と部下との関係性内で行われたパワハラ行為で、誰の目から見ても明らかなのですが…

 企業側も社内で調査すればわかることは後々認めることもあります。しかし、福子建設は残業代についても労災申請についても、初めから「一切協力しない」というスタンスです。

 これに加えて、労災たる傷害が野崎被告人の行為であること、また福子建設が野崎被告人の監督を怠り、会社の環境を安全ではないままに放置していたことを理由として、民事裁判を追加します。

 ――刑事事件では懲役1年10カ月という判決が下され、刑が確定しました。一部では「刑が軽すぎるのでは?」という意見も出ています。刑事事件の結果を踏まえ、これから民事でこれからどのような動きを取られるのでしょうか。

 小山 刑事事件の判決は、傷害事件として見ればたしかに妥当ではないといえます。しかし、前述の理由もあって暴行事件として立件されており、その観点からみれば量刑はやむを得ないレベルだともいえます。法律論の観点からいえば、Nさんも私共も告訴権が認められておりませんので、この量刑については受け入れざるを得ない状況です。

 ただし、先ほども述べたように、民事事件では「暴行事件ではなく傷害事件である」ということを前提に、野崎被告と福子建設に対する請求を追加していきたいと考えております。その際、刑事事件で出た判決内容も証拠として取り扱っていきますし、Nさんにももう一度証言してもらおうと考えております。刑事事件では元従業員の方にも証言に立っていただきましたが、その時の調書の記録も証拠として提出いたします。

 こちらとしては一切引くつもりはありません。野崎被告と福子建設には、今後も民事訴訟を通じ、どこまでも責任を追及していきます。

(了)
【特別取材班】

<プロフィール>
小山一郎(こやまいちろう)
 
 1969年1月21日東京都生まれ。神戸大学卒(専攻:数学、後に法律学)。2004年弁護士登録(司法修習57期)。佐賀県弁護士会所属。市川法律事務所、佐賀中央法律事務所に勤務後、2013年に佐賀県鳥栖市に芯鋭法律事務所を開業。現在まで労働、労災紛争、交通事故紛争を中心に扱う。
所属団体は九州アスベスト被害対策弁護団、鳥栖石綿国賠訴訟弁護団の各事務局長、日本労働弁護団幹事(佐賀県)ほか。


古賀大輝(こがひろき)
 1989年福岡県生まれ。九州大学法学部卒業、九州大学法科大学院修了。2016年に佐賀県で弁護士登録し、解雇、時間外労働、労災など、主に労働者側の労働事件に携わる。

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