2024年05月02日( 木 )

世界最大規模の連続斜張橋建設へ ついに動き出した阪神高速湾岸線・西伸部(前)

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 大阪、神戸の都市高速を管理する阪神高速道路(株)は、大阪湾岸道路西伸部(六甲アイランド~駒栄、延長14.5km)の建設を進めている。西伸部は、慢性的な渋滞が続く神戸線のバイパス道路という位置づけで、渋滞緩和のほか、災害発生時の代替路確保などの事業効果が見込まれている。計画自体は40年以上前からあったが、1995年に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の影響や、巨額な建設費などがネックとなり、事業化が遅れていた。

 2019年12月には、ルート上にある2つの橋梁形式について、それぞれ連続斜張橋(六甲アイランド~ポートアイランド)、1本主塔斜張橋(ポートアイランド~和田岬)を選定。完成すれば、いずれも世界最大規模となる。ここにきて、ようやく西伸部の全体像が明確になったわけだ。西伸部の狙い、世界最大規模といわれる斜張橋の全貌について、取材した。

未開通区間20.9km中14.5kmを事業化

 大阪湾岸道路(4号、5号湾岸線)は、神戸淡路鳴門自動車道(垂水JCT)から関西国際空港(りんくうJCT)を結ぶ延長約80kmを指し、延長約59kmが開通している。大阪湾岸道路西伸部は、湾岸道路の未開通区間(六甲アイランド北~垂水JCT)の延長20.9kmを指す。この区間のうち、六甲アイランド北~駒栄間延長14.5kmが、今回事業着手した区間だ。西伸部は、31号神戸山手線と接続される。駒栄~垂水JCTについては、都市計画はあるが、事業化については白紙の状態だ。

 西伸部のルートは、5号湾岸線の終点である六甲アイランド北が起点。六甲アイランドを横断し、西端部の六甲アイランド西ランプ(仮称)から、灘浜航路、新港航路が通る海上をまたぎ、ポートアイランド東端部のポートアイランド東ランプ(仮称)に接続する。ここから島を西南に進み、西端部のポートアイランド西ランプ(仮称)から、再び神戸西航路が通る海上をまたぎ、和田岬西防波堤付近に上陸。海岸沿いを進み、南駒栄JCT(仮称)を経由し、31号神戸山手線に接続する。

大阪湾岸道路西伸部工事の概要(阪神高速道路発表資料より)
大阪湾岸道路西伸部工事の概要(阪神高速道路発表資料より)
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全国ワーストの渋滞緩和、災害時の代替路確保など

 西伸部の整備効果は、主に3点ある。1つ目が、移動時間の短縮だ。神戸の海沿いを通る都市高速は今のところ神戸線だが、慢性的な交通渋滞が発生している。国土交通省の調査によれば、神戸線(西宮JCT~第二名神接続部)の渋滞損失時間(1万人が1年間のうち損失する時間)は、下りが323.8時間、上りが245時間に上る。

 この数字は、上下線合わせて年間568.8万人が渋滞によって1時間を無駄にしていることを意味する。全国の都市高速のなかでワースト1&2となっている。西伸部が開通すれば、玉津IC~神戸港の所要時間は45分から31分に、玉津ICから大阪駅の所要時間は96分から64分にそれぞれ短縮される(国土交通省調べ)。

 2つ目が、代替路の確保だ。神戸線では、年間855件(2018年)の交通事故が発生しており、このうち392件で車線規制(一部通行止め含む)が実施。この車線規制によって一般道に車両が集中し、そこで渋滞が発生している。神戸線の開通は1961年で、すでに建設から60年近くが経過しており、大規模更新の必要もある。西伸部は、神戸線の代替路として機能させることができる。代替路の確保により、神戸線の大規模改修も可能になるほか、災害発生時のリダンダンシー確保にもなる。

 3つ目が、ポートアイランドに立地する企業や神戸空港などの経済活性化だ。現状では、ポートアイランドには都市高速は接続しておらず、大阪方面への移動には神戸市が管理するハーバーハイウェイ(有料)を経由し、阪神高速に乗り入れる必要がある。ポートアイランドには2つの出入り口を設置予定で、阪神高速への直接乗り入れが可能になる。立地企業、ポートアイランドの先にある神戸空港利用者にとって、アクセス向上になる。

 神戸線は、九州を含めた西日本の物流の大動脈の1つだ。そのリダンダンシーを考えれば、西伸部は早期開通が必要な重要な路線だといえるが、当初の計画から事業化まで40年以上の年月を要した。「なぜもっと早く事業化できなかったのか?」――という素朴な疑問が湧く。

 この点、広瀬鉄夫・阪神高速道路(株)神戸建設部長は、「事業費がネックになっていたからだ」と指摘する。「神戸は95年の兵庫県南部地震で大きな被害を受け、震災復興には大きなお金と時間が必要だった。我々としても、早期に事業化したいのはヤマヤマだったが、『まずは復興』だった」(広瀬部長)と振り返る。地元にしてみれば、震災からの復旧・復興を最優先するのは当然だ。ただし、この25年の間、西伸部事業を含め、新たなまちづくりに資するインフラ整備が停滞したのも事実だ。

神戸港(写真提供:阪神高速道路(株))
神戸港(写真提供:阪神高速道路(株))

できるだけ完成を前倒ししたい

 西伸部は、全6車線の80km/h道路(第2種第1級)で、国土交通省近畿地方整備局(公共事業)と阪神高速(有料道路事業)による合併施行方式で行う。公共事業は道路と港湾に分かれる。全体事業費は約5,000億円(公共分約2,500億円、有料道路分約2,500億円)。

 当初は、全線公共事業(国道)として事業化されたが、阪神高速と事業費を折半する合併施行方式に変更された。18年12月に工事着手しており、現在、駒栄ランプ付近のトンネル工事が進められている。完成時期は未定だが、広瀬部長は「事業認可上の期限は2032年3月だが、できるだけ前倒しして完成させたい」と話す。

 西伸部(今回事業着手した区間)の延長14.5kmのうち、海上ルートは約5.8km。六甲アイランド~ポートアイランド間(新港・灘浜航路部)、ポートアイランド~和田岬間(神戸西航路部)ともに、神戸港などに出入りする船舶にとって、重要な航路となっている。大型クルーズ船の通航のため、航路高(橋桁の海上からの高さ)は最高65.7mとなっている。

(つづく)
【大石 恭正】

阪神高速道路(株)

 1962年5月に発足した阪神高速道路公団が前身。64年6月に1号環状線(土佐堀~湊町、延長2.3km)が開通した。以来、大阪市、神戸市などに路線延伸を重ね、現在の総延長は250.4km。路線数は16路線(新神戸トンネル含む)。建設中の路線は34.2kmで、大阪湾岸道路西伸部(14.5km)のほか、大和川線(延長7.7km)、淀川左岸線・2期(延長4.4km)、淀川左岸線延伸部(延長7.6km)などがある。料金は対距離制を採用。車両区分は5車種区分。神戸市内(京橋)から大阪市内(本町)まで移動した場合、普通車の料金は1,320円(距離40.6km)。開通から50年が経過し、構造物の老朽化が進んでいる。15年度から大規模なリニューアルプロジェクトを進めている。

<COMPANY INFORMATION>
代 表:幸 和範
所在地:大阪市北区中之島3-2-4
設 立:2005年10月
資本金:100億円(+資本準備金100億円)
売上高:(19/3)2,232億円

(後)

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