重要なのは住民の理解と情報共有(後)
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国立大学法人 九州大学
応用力学研究所 新エネルギー力学部門 風工学分野
准教授 内田 孝紀 氏風力発電への期待と課題
――風力発電事業に関しての質問になるのですが、今後は、陸上型よりも洋上型のほうが主流になるという話も聞きます。陸上型、洋上型それぞれの特徴についてお聞かせください。
内田 陸上型は、これまでの経験が生かせる分、洋上型に比べてメンテナンスが容易です。対して洋上型はまだ前例が少なく、これから直面する課題も出てくると思われます。海岸に近い場所に設置可能な着床式と、水深50mを超える洋上でも設置可能な浮体式の2種類ありますが、国内における商用洋上風力発電事業としては着床式で、これから数年先に秋田(※2)で初めて運転開始となります。
※2:秋田洋上風力発電(株)が、国内初となる商業ベースの大型洋上風力発電所を建設。秋田港と能代港の2カ所に、計33機の着床式の風力発電機を設置し、発電容量は14万kWで、2022年中の商業運転開始を目指している。 ^
事業海域における地盤調査、設置後のメンテナンスなど、初期費用に加えて維持管理費も高額になるため、商用化が難しいというのも洋上型の特徴といえるのかもしれません。
何を主力電力とするのか。再生可能エネルギーは、日本のエネルギーセキュリティにも関係してくる問題です。新たな産業基盤としての期待感が先行していますが、現状、厳しい審査や認証を受けねばならず、そのための事前調査も不可欠です。民間企業にとって費用負担が大きすぎて、普及へのハードルは高いといえます。化石燃料によらないエネルギーの確保は、日本の将来のために必要で、求める声も多いのですが、適切な場所があれば建てられるというものではないのです。
――風力発電事業の話をする際、必ずといっていいほど聞かれるのが「低周波問題」です。これについてのご意見をお聞かせください。
内田 ある芸能人の方が風力発電機を原因とする健康被害に言及されたことで、広く一般に知られるようになったと思います。本当に風車音が健康被害につながっているのか、仮にそうだとして風車音をどういう条件で、どういう機器を使って測定すべきなのか。諸条件の違いもあり、判断しがたい問題ですが、環境省も実測を行った判例からいえば、因果関係は認められないというのが結論です。
しかし、人によっては就寝中などに、風車の回転音が気になるということはあるはずです。個人の感覚による部分も大きく、この点は、事業者が近隣住民から寄せられる声に真摯に耳を傾け、誠実に対応することが求められます。
地域に寄り添う再生エネルギー事業に
――最後に、風力発電事業を行ううえで何が大切だと考えられますか。
内田 「(仮称)DREAM Wind 佐賀唐津風力発電事業」に関していえば、計画の存在自体を知らない住民の方が少なくないということですので、計画の進め方としては良くないといえます。開発規模が大きい分、地域の「社会的受容性」を満たすことは必須要件です。住民の方は風力発電事業の専門家ではないのです。情報開示は十分だったのか、一部の住民にしか説明できていなかったのではないか、事業者はこうした自問自答を都度行うべきでしょう。
風車が設置されることで、住民生活はどのように向上するのか。その説明もなく、ある日突然「風車が建ちます」では、感情的になるのは当たり前です。子どもたちの生涯教育の一環として再生可能エネルギーを学ぶ機会につながるなど、地域密着型の「おらがまちの風車」にしていくための創意工夫が求められます。
そして、その実現には地域住民の理解と、それを得るための情報共有、そして反対意見にも向き合う姿勢が重要になります。最初のボタンのかけ違いは、長期にわたって尾を引きます。事業者が責任をもって、合意形成を図らなければなりません。
「(仮称)DREAM Wind 佐賀唐津風力発電事業」が、周辺地域のエネルギーの自給自足、経済の活性化、再生可能エネルギーに関連する人材育成や輩出など、地域の発展に寄与する風力発電事業になることを期待しております。
(了)
【代 源太朗】
法人名
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