土地・建物の相続登記が義務化、相続した土地の国庫帰属も可能に(前)
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相続未登記の土地が増加
土地・建物の相続登記の義務化などを内容とする民法・不動産登記法が4月21日に改正され、2023年から順次施行される(具体的な施行日は未定)。また、相続した土地を国庫に帰属させて手放すことができる法律も新設された。
相続登記はこれまで義務ではなかったため、都市部への人口移動や高齢化、固定資産税や管理費用の負担により、地方を中心に利用ニーズのない土地の相続登記や管理がなされなくなったことから、所有者不明土地(※1)が約22%を占めるまでに増加している(17年国交省調査)。何世代にもわたり相続登記されないと、現在の所有者が登記上わからないままに、土地の相続人が数十名~数百名に上る事例もあるとされる。所有者不明土地は、道路工事などでいざ土地を利用しようとする際に、自治体による所有者の探索に多大な時間とコストがかかるほか、土地が管理されず放置され、草が生い茂ったり崖が崩れるなど隣接地に悪影響をおよぼしたり、公共事業が進まない、土地の民間取引が阻害されるなどの問題が発生してきた。今回の法改正は、これらの問題の解決に向けた一歩だ。
改正法では、相続による土地・建物の取得を知った日から3年以内にその相続登記を申請することを義務付け、正当な理由なく相続登記を行わない場合には10万円以下の過料(※2)の対象となる(24年4月までに施行)。過料は登記を促すことが目的であるため、相続登記がされていない土地に一律に科されるのではなく、相続登記がされていないことを何らかの方法で知った法務局が相続登記の申請を促したにもかかわらず、相続人が正当な理由なくこれに応じない場合に過料の対象となることが想定されている。相続登記時の登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)の負担軽減措置の導入も、今後検討される見込みだ。
※1:不動産登記簿により、ただちに所有者がわからない土地や、所有者がわかってもその所在がわからず連絡が付かない土地。 ^
※2:義務違反に対するペナルティとして金銭の支払いを求める罰則。罰金とは異なり刑罰ではない。 ^これまでは戸籍を調べて相続人を特定し、その持分の割合を明らかにしなければ登記できないことが、相続人が複数いる場合に登記が進まない原因になってきた。そのため、法定相続人であれば、自らが登記名義人の相続人であることがわかる戸籍を取得すれば、単独で申告できる「相続人申告登記」が新設された。ただし、土地の持分は登記されない。相続人申告登記により相続人の連絡先を把握することができるため、土地を開発する際の用地買収などの場面でも、相続人に連絡を取って交渉しやすくなることが期待されている。また、登記所が「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」などの公的機関の情報から登記名義人の死亡情報を取得して、登記に表示(符号で表示)するようになるため、事業用地の計画時に登記名義人の死亡の有無を登記から確認できるようになる。
また相続とは別に、都市部では住所変更登記が放置されることが所有者不明土地の大きな原因となっているため、住所などの変更登記の義務化(26年4月までに施行、5万円以下の過料)、個人の場合は住基ネット、法人の場合は「商業・法人登記システム」から取得した情報に基づき、登記官が職権で登記名義人の住所等の変更登記ができる仕組みも導入される(26年4月までに施行)。
相続した土地の国庫帰属
今回の法改正により、10年分の土地管理費相当額の負担金と審査手数料を支払うことで、相続した土地を国庫帰属させられるようになる(23年4月までに施行)。国庫帰属できるのは、建物がない更地、土壌汚染や埋設物、崖がない土地、権利関係の争いや抵当権などの設定がない土地、境界がはっきりしている土地など、管理や売却に多くの費用や労力がかからないことが要件(表参照)とされる。子どもが遠方に住んでいるなどで相続を希望しない土地、固定資産税や管理が手間になる土地では、要件を満たしさえすれば、国庫帰属が可能となる。
国庫帰属となった土地は、財務省が国有財産として管理し、払い下げできるようになる。一方、国有財産の払い下げでは、公務員宿舎があった土地などの立地条件が良い一部の物件は買い手が付くが、国庫帰属となるのは本来、市場で買い手がつかなかった土地のため、実質的には10年を超えて国が管理する可能性が高い。10年分の土地管理費用の目安は、見回り程度の管理で足りる原野約20万円、柵の設置や草刈りなど定期的な管理が必要な市街地の宅地(200m2)約80万円などの国有地の管理費用が参考とされる。なお、この国庫帰属制度は、施行から5年後の運用状況を踏まえた見直しが予定されている。
国庫帰属となった土地は、自治体が地域福利増進事業として地域の公園や病院、道路など公共目的で使うことができる。国交省では、太陽光パネルの設置による再生可能エネルギーの利用など、これらの土地の利用範囲を広げる仕組みを、「所有者不明土地の利用の円滑化などに関する特別措置法」の改正として来年の通常国会の議題に挙げることが議論されている。
(つづく)
【石井 ゆかり】
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