2024年04月20日( 土 )

土地・建物の相続登記が義務化、相続した土地の国庫帰属も可能に(後)

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共有地の売却容易に

民法や不動産登記法などの改正のポイント

 所有者不明土地の管理や利用を推進するための法改正も行われた(以下、23年4月までに施行)。まず、所有者不明土地の利用を円滑化させるためにつくられた、裁判所が管理命令を出し、土地単位で管理人を選任する「所有者不明土地管理制度」により、裁判所の許可があれば、所有者不明土地も売却できるようになる。さらに、所有者がわかっていても管理されず危険な状態になるケースもあることから、放置されて管理不全となった土地の管理人を選任して管理できる「管理不全土地管理制度」もつくられた。なお、この「管理不全土地管理人」は、利害関係のある人でなければ申し立てができないが、地方公共団体もその選任の申し立てをできるように国交省で議論が進められている。

 これまでは、土地の共有者のうち1人でも行方がわからなくなると、土地に関する意思決定(売却など)や持ち分の集約ができないことが課題になっていた。そのため、改正法では、公告をしたうえで残りの共有者が同意することで、土地に変更を加え、草刈りや危険物の除去などの管理を行うことが可能とされている。さらに、所在のわからない共有者の持ち分に相当する金額を支払うことで、相続された土地の所在不明者の持ち分を取得できるようになるため、共有者の所在がわからなくなっても売却などを行いやすくなる。また、遺産分割がされないまま長期間放置されることを防ぐため、相続開始から10年が過ぎると、生前贈与や亡くなった人への寄与の有無など、個々の事情による相続割合の主張ができず、法定相続分(※3)でなければ遺産分割できない制度に変わる。

 これまで公道と接していない袋地では、電気・ガス・水道などのライフラインを所有者不明の隣地を通して設置できる根拠規定がなく、隣地の利用が阻害されてきた。そのため、所有している土地にライフラインを引き込むための導管などの設備を、所有者不明状態であっても、他人の土地に設置する権利が主張できるようになった。今回の法改正により、相続した土地が放置される事例が少なくなることが期待されている。

※3:法律で定められた相続割合のこと。配偶者と子1人が相続人の場合は各自2分の1。 ^

法務省民事局参事官 大谷 太 氏

 相続登記されずに長期間放置されてきた土地では、これまでも法務省による長期相続登記など、未了土地解消作業(※4)などの取り組みがされてきたが、今回の法改正では、所有者不明土地問題の解決のための方策を多面的に講じており、問題の解決に向けてさらなる進展が期待される。

※4:20年度末までに登記名義人単位で約6万人を調査。 ^

(弁)菰田総合法律事務所 弁護士 菰田 泰隆 氏

(弁)菰田総合法律事務所 弁護士 菰田 泰隆 氏 相続した土地の国庫帰属は、山林や田畑など活用する予定のない土地を相続してしまい固定資産税の負担があるだけの人にとって、ありがたい制度だ。一方、国としては固定資産税の税収がなくなり、土地の管理負担が増えるため、厳しい要件を定めている。多くの人が手放したい土地とは、さまざまな問題があって売却もできない土地であるケースが多いため、要件をクリアするのはハードルが高く、活用される場面があまりない可能性が高い。
 これまで登記で実際に過料が課されるのは一部の悪質な事例にとどまり、相続登記を促す過料も、課される事例が増えなければ効果は薄いと予想される。相続登記の義務化で所有者不明土地問題は多少解決するだろうが、長年放置されて実質所有者がわからない土地での所有者探しは、変わらず必要になる。

岡本政明法律事務所 弁護士 田中 宏明 氏

岡本政明法律事務所 弁護士 田中 宏明 氏 すでに過料の制裁がある会社登記についても、登記されていない事例があるように、今回の法改正により、相続登記の放置がすぐにゼロになることはないと思われるが、若干は減るだろう。また、過料の金額が10万円以下と低く、国としてはどれくらい登記されるか「様子見」という面もあるのではないか。登記が増えなければ、制裁を厳しくしたり、制度新設や法改正が行われたりする可能性もある。
 都市部の土地についていえば、基本的には価値があると考えられる。そのため、国庫帰属制度を利用したいという希望が出てくるとすれば、境界がわからない土地や、工場跡地で土壌汚染がある土地など、そもそも利用や売却に問題がある土地ではないか。その場合、国庫帰属制度の要件を満たすため、境界確定訴訟により境界を確定させたり、土壌汚染の除去工事を行ったりするのは、費用面のハードルが高いと思われる。従って、相続後の「放置」が解決しない場合も多いだろう。

(公社)全国宅地建物取引業協会連合会事務局

 都心では固定資産税が高いため、管理の手間を考えると国庫に帰属させた方が良いと判断する人は一定程度いるだろう。また、地方では、たとえば農業を継続する意思のない人が農地を相続するようなケースで、土地を手放したいというニーズは高い。そういう意味で、今回創設された土地の国庫帰属制度には期待をしているが、10年分の管理費を払う必要があるなどハードルが高いため、実際の利用者がどの程度いるかは不透明である。
 土地の相続登記がなされないのは、戸籍を調べても親族が集まらず、兄弟間で遺産分割の話がまとまらないなど、「相続登記をしたくてもできない」という登記以前の問題があることも多い。親族間で遺産分割の話が早くまとまるように促進する仕組みが必要だ。
 水道管などのライフラインを通すために他人の土地を使うことに関して、現場で数多くのトラブルになってきたが、今回、その権利を主張できることが民法で初めて明確にされた。隣地所有者の承諾が必要であることは変わりないが、トラブルも解決しやすくなるだろう。

(了)

【石井 ゆかり】

(前)

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