音のデルタ地帯 「俺の」吉塚(前)
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「吉塚に行ってみた。」
突然だが、「吉塚に」をローマ字に変換してみたら、「y_oshizukani」→「y_お静かに」となった。何と吉塚という地名のなかに“音”に関する心得が込められているのだ。中央区に住んでいると用事があまりないので、文字通り「吉塚に行ってみた。」という言い回しになるのだが、今回、吉塚を散策していて図らずとも音に関する気づきが多くあったので、少し驚いている。吉塚の街のイメージを知人に聞いてみると、口籠ったりうまく言い表せなかったりと、あまり明確な回答が得られないのは、もしかするとその辺りに起因するのかもしれない。文末には、その打開案も含めてみたいと思う。
今、吉塚で注目されているのは、2021年3月13日にオープンした「吉塚市場リトルアジアマーケット」だろうが、そちらは吉塚の本当の“地の利”が伝えられないので、今回はほかに譲りたい。
煙突のない工業地域
筆者の出身地は瀬戸内海に面した小さな海の街で、港湾沿いに200m級の煙突群が乱立する石油化学コンビナート地帯だ。煙突を高くして着地濃度の低減を図るその高層の構造物が生活の原風景にあり、大型のプラント工場とはこういうものだと、幼少のころから記憶に埋め込まれている。吉塚は、用途地域でいえば駅前こそ商業地域が幹線道路沿いに薄く張り付いているものの、一部住居地域をのぞいて大部分が「準工業地域」だ。工業といっても大きなプラントがあるわけでもなく、街のなかに中小の工場が入り込んでいるといった感じだ。
平日の午後、天気は曇り。風が少し強く、いつもより厚手のコートを羽織ってJR吉塚駅に降り立った。ちょうど、飛行機が轟音とともに上空を下降してきた。音が多い。車、電車、新幹線、トラック、工事、そして飛行機。その間のわずかな時間、すべての音が止んだ間があって、シーンと静まり返って気持ちが悪かった瞬間を覚えている。何だか殺伐とした雰囲気だ。
吉塚には都市公園が少なく、住居地域には昔からあるような古い民家や低層のアパート、寺社などが残っていて、準工業地域に比較的新しい戸建や中層マンションなどの新しい年代層が住んでいるような傾向だ。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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