音のデルタ地帯 「俺の」吉塚(前)
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縁の下の力持ち、吉塚
吉塚駅は1904年に吉塚~篠栗駅間開通にともない、九州鉄道(当時)の仮設駅として開設された。以後、国有化や国鉄分割民営化を経て、現在はJR九州グループの傘下に入り、JR九州の駅としては1日平均乗車人員第5位の福岡市主要駅の1つだ。西口駅前は再開発が進み、低層階に飲食店やドラッグストア、クリニックや整骨院などのサービス店舗が入ったマンションなどが建ち並び、通勤通学による往来も多い。駅前には国体道路につながる幹線道路(県道550号線)が走り、交通量も多い。とかく「溜まる場所」というよりは博多へ通じる上京ルート線上の「流れていく場所」といった印象が強い。JR鹿児島本線と篠栗線、山陽新幹線が集約してくる場所にあたり、南北(正確には北東~南西)へ幹線道路と鉄道線路が並走し、激しい車輪の音が博多の中心部河口に向けて注ぎ込み、街に轟く。大都市・博多を支える近隣街の宿命だ。
一方、東口は吉塚の地名が残る古い街区だ。少し殺風景な駅前広場の目の前からは、住宅街が広がる。駅前の住居地域には10階前後の比較的新しいファミリー向けマンションがあるものの、内部へ入り込むと古いアパートや平屋の民家、中小の工場、小学校、物流倉庫、印刷会社、石鹸工場、トタン屋根やスレート壁の工業系の会社などが混在している準工業地域だ(ちなみにそこから南東へ伸びた一帯、空港西側に沿ったエリアは「工業地域」が広く分布していく)。
航空法の規制で低層の建築物や、管理緑地、空地などが目立ち、都心部には珍しいほどの広い空が望める。幹線道路沿いはファミリー向け中層マンションがチラホラあるが、多くは単身向けの1DKか、あっても2LDKといった住環境エリアのようにも見える。昼時、コンビニ弁当の袋を片手に作業着のおじさんが自転車に乗って会社に急ぐ姿、駐車場には脚立を積んだミニバンの社用車など、企業戦士や営業車も街中を走る。やはり工業地域ならではの風景が見られる。
また、街の西側から東に向かって国道3号線と都市高速環状線が下からすくい上げるように街を蛇行し、東側には都市高速・豊JCT、そして空港通りにつながる高速の出入口が口を開けて待っている。都市高の上り口には加速するためにエンジンを吹かす車、下り口にはメガホンの先っぽのように音を積んだ車が飛び出してくる。ここもまた、音を轟かせている街の東側端部である。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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