2024年04月29日( 月 )

弱みを生かした福岡の都市づくり再考「遅い開発」と中古市場の親和性(1)

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広がりすぎた地方都市

 ところで、日本の地方都市は「市域が広がりすぎた」という課題を抱えている。外へ外へと開発を広げていった結果、どこへ出かけるにも自動車が欠かせず、そのための時間や維持費(車検、ガソリン代、駐車場代など)がかかりすぎる点で、不便な生活環境なのだ。また、道路や上下水道など各種のインフラも、市域の拡大に応じて整備しなければならないため、中心地に人口が密集した都市と比べ、敷設・維持管理コストの負担が増加していく。

市域が広がりすぎた 参考文献
市域が広がりすぎた 参考文献

    2000年代から拡がってきた「コンパクトシティ政策」は、実は難航している。一度広がってしまった市域は、そう簡単には戻すことは難しい。住民を半ば強制的に中心地へ移住させるようなことは、よほど強いリーダーシップがなければ成し遂げられないだろう。

 福岡市がコンパクトシティに成功した理由、それは他都市が市街地をどんどん拡大していた時代にも拡大を行わず、むしろ成長余力を残しながら都市発展の管理をしていたところにある。つまり、広がった市域をコンパクトにしているわけではなく、最初からコンパクトな状態を維持し続けていたところに、福岡市の強みがあったのだ(詳しくは「福岡市が地方最強の都市になった理由/木下斉」を参照)。

節水型都市づくり

 そこでポイントになってくるのが、“資源の弱点”という側面だ。福岡市は多くの大都市と異なり、市内に一級河川がなく、地理的に水資源に恵まれていなかった。過去2度の異常少雨(1978年、94年)により渇水が発生し、300日におよぶ給水制限もあった。市民生活や社会活動に多大な被害をもたらすこのような教訓を基に、他都市に例を見ない水資源開発を進めた。

 たとえば、近郊河川の新たな開発や揚水式ダムの建設、既存ダムの湖底掘削や流域外を流れる一級河川・筑後川からの導水、浄水場から蛇口までの水の流れや水圧をコンピューターで制御する配水調整システムの構築など。また同時に、市民の節水意識の向上もあり、市民と行政が一体となった「節水型都市づくり」を進めてきた。

 人口が増えれば水も必要になる。水源問題は工場誘致の弊害、人口増加の制約にもなる。「水源が乏しい」ことは市域の拡大を阻む大きな要因になり、福岡市の都市開発にとっては大きな弱みだった。しかし制約を逆手に、安定的な市民生活の保持を優先させ、コンパクトで良好な都市密度を維持した。結果的に都市インフラの効率が高く、通勤ストレスなどを緩和した満足度の高い都市を実現したのだ。

昭和53年と平成6年の渇水の比較(福岡市HP)
昭和53年と平成6年の渇水の比較(福岡市HP)

松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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