2024年05月14日( 火 )

建築家とは何か(前)「箱」から「場」へ構造転換(4)

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 規律と秩序を保ち、社会との親和性を図る指南役として“建築家”は存在する。しかし今、彼らの力が社会的に弱まってきているようだ。設計者は何を考えているのか──都市を積み上げる実行者たちの働き方から、業界に存在する特殊なメカニズムの秘密に迫ってみたい。

建築家は好みの線とオーナーを捜している
岩手銀行 赤レンガ館 © Cygnus_morioka
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)

建築家と建築設計者の違い

<建築家の考える“建築学”>
■快適さ、利便性、機能性というニーズを満たし、空間と人間の関係をデザインする。
■社会や文化に影響を与え、歴史に配慮し美学と秩序をつくる。
■公共の場やコミュニティの創造を考え“いい物語”をつくることに注力する。
■社会の歪みを正そうとする。

<建築設計者の考える“建物学”>
■ニーズと要求に基づいて機能的で美しい建築図面を引く。
■建物がより機能的に、合理的につくられるように構造的・設備的に考える。
■建設技術や知識、規制などの条件を把握し、工事計画を組み立てる。
■与えられた与件に、丁寧に応えていく。

好みの線と、オーナーを捜す

 だから建築家(設計者)は、自分の選りすぐったメッセージと実績を武器に、仕事を探し続ける。しかし、建築の面白いところは、資金を出すオーナー主導だということ。決して自分のつくりたいものからスタートするわけではなく、オーナーがプロジェクトを始動する。いくら設計者が良いものを考案したとしても、出資者であるオーナーが首を縦に振らなければ、机上の空論だ。だからそのゴールを見定めて設計者は、ひたすら“自分好みの線と、オーナー”を捜す。

 つまるところ設計者は仕事を探すというよりも、オーナーを探すと言い換えてもいい。オーナーと良いパートナーシップを結ぶことができれば、ある程度自由に自分のアイデアを他人のお金でかたちにするという理想の働き方ができるのだ。

 ただし、このオーナー制度、業態的には大きく3つに分けられる。「公共建築」「商業建築」「住宅建築」だ。公共建築は役人を相手に、不特定多数の利用者が集まる空間を税金でつくる。商業建築は店舗を代表とする商売人を相手に、エンドユーザーにたくさん使ってもらえるようなサービス空間を提供する必要がある。住宅建築は施主の要望が絶対で、概ね社会とは断絶されたプライベート空間なので、独自の世界に添ってつくり込まれる趣向品へ向かっていく。

 “建築家が弱体化してきている”背景には、「空間が足りている」と同時に、この「オーナーの力の肥大化」という流れがある。情報が広く開かれ、特定の特権者でなくともさまざまな高度な情報に触れることができるようになって、力関係が歪になった。建築家は往々にしてプライドが高く、今のSNS時代における発信力も決して高くはない。広く大衆に向けて迎合する行為自体に向いていないという体質傾向がある。

 かつて一般的な情報収集としては業界の専門誌など、特定のメディア媒体からでしか情報にアクセスできなかったが、今の情報収集や画像検索は、専らSNSからという人は少なくない。気軽に検索もでき、企業やショップから大量の“映え写真”が溢れ、一般ユーザーが建築家の存在にまでたどり着けない。もし存在を認知してもらうことが目的ならば、建築家はSNS戦略を強化し、その後のレビューにも耳を傾けなくてはならない。

 また、経済至上主義に後押しされて、費用対効果を過剰に求める傾向もある。要はクライアントが狂暴化していて、そこに建築家が伴走者として立ちづらくなっている。建築家は、ビジネス世界では名前が挙がってこない。そこを語れる専門性にも課題感がありそうだ(大学教育でも、建築学科でビジネス的なアプローチはほとんどなかったと思う)。

 特定の者だけでプロジェクトを引っ張る時代ではなく、共創、協働、または広く参加者(共感者)を従えて進める「プロセスエコノミー」の手法へ変わってきていることも大きいだろう。「社会的にイイ」よりも「個人的に好き」に共感が集まる時代。そして、その少数派意見が拡大して社会現象まで拡大することができることは、個人プレーに終着する建築家の働きと合致しなくなっているのかもしれない。

 かつてほど「学歴社会」と言われなくなった“権威の低下”という側面もあるだろう。もしかすると失われた30年といわれるように、社会を成長させられなかった社会的戦犯として、その世代の建築家にも風あたりが強くなったのか…。そう考えるとすれば、建築家の力が弱くなったのではなく、かつての方法で建築家が参画する導入方法が変わってきたといえるのかもしれない。

(後編につづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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