わらび座ミュージカル「ジパング青春記」特設ページ
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2019年10月17日 09:00

「減薬・偽薬」のススメ(後)

大さんのシニアリポート 第82回 

ぐるり亭のカラオケ

 「偽薬」というものがあることを、2019年10月3日朝日新聞「ひと」欄で初めて知った。文字通り「嘘の薬」である。見かけは直径8ミリの白い錠剤だが、薬効成分は入っていない。「偽薬」の中身はほぼ糖(ブドウ糖や乳糖)とカルシウムである。法律上は食品扱いとなる。「偽薬」だけをネット販売する会社が誕生した。会社名を「プラセボ製薬」。33歳の水口直樹さんが5年前に起業した会社だ。

 京大大学院で医学を学び、製薬会社に就職。入社2年目、新製品アイデア募集で、新薬の効果をたしかめる比較試験で使う偽薬を一般向けに販売する案を提案。会社からは「製薬会社の役割ではない」と一蹴され、退職し起業した。30錠で999円(税込み)。「認知症の高齢者を介護する人、子どもが車酔いするが、外出のたびに薬を飲ませるのが心配な親…。使い方は人それぞれ。(「偽」は)『人の為』と書く、優しいうそを売っています」という。

 実際には効果のない偽薬でも、本物だと信じ込んで飲むことで、本物の薬と同じ効果が出る場合も少なくないという。「これは睡眠薬です」といって飲ませると、眠くなる成分がないにもかかわらず眠気を感じる人が多い。これを、"プラセボ効果"という。

 とくに介護の現場では、認知症の高齢者が飲んだことを忘れ、投薬を拒否する介護職員との間でトラブルが起こり、入所者も職員も疲弊してしまう場合が少なくない。こうした場面に遭遇した場合、身体に無害な「偽薬」を飲ませれば双方丸く収まるというもの。

 一方で、外傷にはあまり有効とはいえないそうだ。"プラセボ効果"が期待できるのは、眠気や痛みという脳内現象がメインとなる。それ以上に、「服用したことに満足する」人がいるという点に着目すべきだと思う。当然薬品メーカーは強い反発の姿勢を見せている。「偽薬」が医薬品ではなく、「食品」という範疇に区分されるため、積極的に口出しできないもどかしさも見え隠れする。

 「厚労省によると、治療を受けている65~74歳の約3割、75歳以上の約4割の人が5種類以上の薬をのんでいる。高齢になるほど肝臓や腎臓の機能が落ち、代謝や排泄に時間がかかるため、薬が効きやすくなる。また、のむ薬が増えると、副作用が起こりやすくなる」(同2019年9月11日)といい、厚労省は2017年4月から、「高齢者の医薬品の適正使用の検討をはじめ、昨年医療機関に向けて転倒など高齢者に多い症状の原因となる薬の扱い方をまとめた指針を示した」。

 18年度から6種類以上の内服薬が処方されている患者について、薬剤師が医師に減薬を提案し、2種類以上の薬を減らせた時には、月1回に限り調剤報酬がつくことにしたという。制度面からも後押しをはじめた。日本精神科病院協会の「減薬・中止」もこの指針に基づいたものと考えられる。

 前出の中井要蔵さんにも重度の認知症のため、家で薬を飲むことを忘れる場合が多い。そのため、社会福祉協議会のYさん(社会福祉士)と大きめのカレンダーにアリセプトを入れた袋を貼り付ける作業をした。アリセプト効果に疑問をもつ私がためらっていると、「担当医が出した薬を服用させないわけにはいかないの」と強い調子で叱責された。

 そのとき、「偽薬」があれば躊躇なくすり替えていたと思う。発覚すればそれなりの「罪」に問われることになるだろう。でも、服用後の要蔵さんの容体急変を思うと正直悔やまれる。

 私が月一度通う薬局では、必ず「お薬手帳」の提出を求められる。薬剤師なら医師の指定する薬の効能を把握していないはずがない。でもこれまで一度も薬に対して医師に注文をつけたのを見たことがない。訪ねられるのは血圧の状態と体調、それに漢方薬の有無(量が多いので、飲みきれない場合が多い)の確認のみ。薬剤師は出される薬に問題ないと判断したと思いたいのだが…。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

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