2024年04月26日( 金 )

再開発から見る「都市と建築」(1)天神ビッグバンによる再開発の新フェーズ

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

転換点は「歴史の保存」

 これまでの再開発は各地点における1~2棟のビルであったが、天神ビッグバンは面的であり、「天神交差点から半径約500m」といったように、エリアでの再開発プロジェクトであることがわかる。2021年11月現在までに、建築確認申請は52棟が済んでいるという。これまで市内を満遍なく再開発し、それをトリガーとして広く高度利用を促してきた。今回はそれが一巡した後の都心回帰、都市中枢機能への集中投資、さらなる高度利用である。

福岡市の旧大名小学校跡を活用したスタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」
福岡市の旧大名小学校跡を活用したスタートアップ支援施設
「FUKUOKA growth next」

 また、これまでの再開発になかった視点もある。歴史的建造物の保存、大名小学校のスタートアップ拠点としての保存活用である。これは小さな規模かもしれないが、福岡における再開発モデルの転換点としては重要である。これまで、福岡に限らず日本の再開発には、保存という視点が足りなかった。しかし本来、再開発とは建造物の保存も含む概念である。ジェイン・ジェイコブズ氏を引き合いに出すまでもなく、古い建物が事業者の多様性を担保し、その多様性が都市経済を活気づける。それに、建造物の保存は再開発にあらかじめ愛着を付与し、人々が自然に集う場となりやすい。建築家・辰野金吾氏による明治期の建築である赤煉瓦文化館が、福岡市のスタートアップ事業の一環でカフェ利用されているのも好事例である。

再開発の新たなフェーズ

 次に気になるのが、空間に持続的な活気を与える人間の問題である。市街地再開発事業とは、既存の事業者や借家人の権利を新しい再開発ビルに「立体換地」するというスキームであった。しかし、筆者が以前行った研究では、福岡市の市街地再開発事業において、既存の住民・事業者の多くが再開発を機に移転したということがわかっている。再開発というのは、ビルの建設にせよテナントの入居にせよ、その場所になかった新たな資本の投機という側面をもつ。しかし、それだけでは福岡市の長年の課題とされている「支店型経済」の焼き直しだ。これまでの再開発は残念ながら、支店型経済を助長したと言っていい。

 誘致から資本の育成へと転換できるか。折しも福岡市はスタートアップシティを掲げているが、天神ビッグバンがどう機能するかは、注意が必要だろう。天神ビジネスセンターを設計した重松象平氏のように、プロジェクトによって福岡と世界の間で人材が一巡する、そういった好循環が再開発にも必要である。

 資本の保存と育成、それはパリにせよニューヨークにせよシアトルにせよ、グローバルに影響力を持つ都市がどこも有している特性である。福岡の再開発もそういった新たなフェーズに入ったと思われる。本連載ではこのように、都市再開発を通して都市と建築について考えていきたい。


<プロフィール>
角 玲緒那 氏角 玲緒那
(すみ・れおな)
1985年北海道生まれ、札幌市立高等専門学校、九州大学21世紀プログラム、九州大学芸術工学府博士後期課程単位取得退学。専門は建築。現在は歴史的建造物の保存修復に従事する。

 

再開発から見る
「都市と建築」(2)
  • 1
  • 2

関連記事