2024年05月04日( 土 )

自治会がなくなれば居場所もなくなる(後)

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大さんのシニアリポート第121回

 私が住む公営の集合住宅に隣接するURには自治会がない。当初、自治会立ち上げの機運があったものの、UR側が難色を示しことごとく潰されたと聞く。千葉県松戸市にあるUR常盤平団地自治会のように、徹底した家賃の値上げ反対闘争やさまざまな要求に辟易してきたという実情があった。自治会がないので、夏祭りをはじめ、住民が参加する行事がない。だから、隣に住む住人が分からないという不安が顔をもたげる。

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    自治会崩壊の要因の1つに急激な高齢化があげられる。「65歳以上の高齢者の割合は、15年の26.6%から22年には29.1%」(同)に急増。「東京都23区では、高齢者が人口に占める割合が5割を超える『限界集落』に匹敵する地域は、20年で15カ所。『自治会が必要、どちらかというと必要』と回答したのは約40%。『自治会に加入している』人は約8割」(同)である。高齢者にとって自治会活動は負担が大きい。

 自治会・町内会入会減の理由は、(多い順に)参加する利点が分からない/役員や班長をやりたくない/活動への参加時間が取れない/人付き合いが面倒/地域活動に興味がない/会費の負担が大きい/地域の人口が減っているから(以上、朝日新聞デジタルアンケート 2023年2月2日~2月22日)となっている。

自治会は行政の下請組織ではない

 自治会参加への負担減をはかり、より多くの自治会員増へ取り組むところもある。東京都中央区中洲の「中洲町会」では、特定の住民に負担が偏らないような仕組みをつくり上げた。「部員」と「準部員」に分け、イベント参加に際しては、①イベントだけに参加、②当日の準備から参加、③事前準備から参加など、住民の生活状況に応じて関わり方に差を付けた。

 さらに新旧住民の垣根をなくすため、広報部をつくり、ホームページや動画、チラシで活動を紹介し、全戸にイベント案内を配った。また、LINEグループをつくり、PDFファイルにして投稿する「電子回覧板」を実験的に試みた。労力のスリム化という課題にデジタル化で対応するという試みは必然だと思う。

 しかし、実際、デジタル化に取り組んでいる自治会は4分の1に過ぎない。理由は高齢住民の多くにとってデジタルは苦手だ。新しく取り組む人は皆無だろう。集金のキャッシュレス化に取り組むのは、北海道苫小牧市の拓勇東町内会。会費をコンビニ払いにすることで、回収の労力を減らした。また、多額の現金を管理する必要もないというメリットを生んだ。(朝日新聞 2023年3月12日参照)

 自治会活動の負担増の一因は、行政からの依頼事業の多さにもある。広報誌の配布から行事への参加(参加人数の明記)、事務的な依頼など多岐にわたる。自治会は限られた地域の親睦団体であって、行政の下請組織ではない。このままではさまざまな「地域活動」というコンセプトから外れ、自治会本来の活動を制限しかねない。

 その点を考慮し、自治会負担の軽減化を手助けする自治体も出てきた。たとえば、市の広報誌の配布は従来自治会に丸投げされていたが、これを民間業者に委託したり、特定の住民に有料で配布を委託したりするなど柔軟な姿勢を示す。

 地域活性化コンサルタントの水津陽子氏は、「阪神大震災などの過去の大震災をみると、住民同士のつながりが強い地域では迅速な安否確認救助活動などの助け合いが大きな力になりました。地域づくりの担い手を自治会に限定する必要はありません。地域にはNPOや学校、企業なども存在します。多様な人材や組織が連携すれば、地域の課題解決や魅力づくりの大きな力となるはずです」(同)と提言する。

スローガンは立派だが…

サロン幸福亭ぐるり イメージ    実情は別だ。地域にあるさまざまな団体や組織の多くはスローガンだけで明確な見通しを描けていない。とくによその組織と組んで具体的な行動をとることには不慣れだ。スローガンだけは立派なのだが、中身が乏しい。

 よく、行政が規範を示し、それに従って行動するという声を聞くが、行政そのものが明確に示すことができないのが現状だ。私が住む公共住宅では、ある特定の宗教団体が安否確認や見守りなど、本来自治会が担うべき活動を結果的に対応している。当然対象は宗教団体加入者のみである。

 自治会の崩壊は高齢者だけではなく若者の分断化も進める。かつての家父長を頂点とした大家族主義は跡形もない。家族そのものが分断され、核家族化が進み、個人が単体で生きていくことを余儀なくされる時代だ。最後の砦とまではいわないが、地域という単位で住民を有効的に結びつけ、互いの存在を確認し合うことができるのが自治会・町内会だと思う。

 拙著『団地が死んでいく』(平凡社新書)を上梓し、「団地が死ねば孤独死という妖怪が闊歩する」と説いたのは2008年4月である。あれから15年、状況は日増しに悪化している。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第121回・前)

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