2024年04月27日( 土 )

世の中に絶望しなければならない事態はない。困難な状況を楽しめ!(3)

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吉野家ホールディングス 会長
CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合 特別顧問
安部 修仁 氏

絶望とは、無駄と思ってやらないこと

人口減少で市場飽和することなどない

 ――経営課題を見据えて必死に努力してくというのは普遍的な価値観だと思います。日本経済自体が成熟期に入ったことで、考えなければならないことが多くなり、課題もより難しくなっていると思います。このような時代に必要な考え方は何でしょうか。

 安部 オーバースペック、オーバーサプライ状態というのは今に始まったことではなく、どのような業界でもすでにそうで、これからもマクロでは需要が減っていくのは間違いない。その前提で考えなければならないのはたしかです。

 たとえば吉野家では、かつては、1店あたり1日の獲得客数が700~800人というのが1つのラインだったわけですが、今はどんなに頑張ってもせいぜい500人です。これがマーケットの実情なので、そこに合わせてROA(総資産利益率)、アセット(資産)に対する適応利益を確保できる仕組みに変えていくしかありません。

 こうして、現実の問題に対処しつつ、一方では新しいマーケットの創造へ向けたチャレンジとして、現状の延長線ではない利用シーンを想定する。さらに、それに適応する商品、サービスを用意するといったように、攻防を一体とした中長期のやるべき課題と、どの水準をいつまでに達成するかという目標をもってやっていくことになります。

 ――人口が減れば、あらゆる国内市場が縮小していきますが、では事業縮小するしか道はないのか、というと決してそんなことはないわけですよね。

 安部 いくらでも道はあると思います。良い例がセブン-イレブンですよ。もう国内で2万店もあるのに、まだ業績を伸ばしています。限られた店のスペースをいかに使うか、同じ商品をずっと売り続けて何十年も経っているのに、まだ何かしら工夫を重ねています。
 コンビニチェーンにしても、人口飽和状態というベースは同じ、店舗数の飽和状態という業界事情は同じです。それでも、工夫の余地はあるということです。人口が減少しているのは間違いないことですが、日本全国を制覇したサプライの拠点など、いまだかつて誰ももちえていないのもまた事実です。少なくとも、市場飽和でもう業績を伸ばしようがないという泣き言は、1,000店を超えてから言ってほしいと思いますね。

(つづく)
【聞き手・文・構成:太田 聡】

<プロフィール>
安部 修仁(あべ・しゅうじ)

1949年福岡県生まれ。プロのミュージシャンを目指して上京。生計を立てるためにアルバイトとして入った吉野家で、当時の松田瑞穂社長に見出されて72年正社員に登用。九州地区本部長、営業部長、取締役開発部長を経て、86年子会社取締役に就任。その後も吉野家ディー・アンド・シー常務、同専務を経て92年に代表取締役社長就任。2007年には改組にともない吉野家ホールディングス社長に就任。社員時代の83年に倒産から再建までの苦難の道のりを経験。経営者になってからは、BSE問題やライバルとの牛丼戦争に直面し、社員の先頭に立って戦い抜く。2014年5月、会長職に就任したのを機に経営の一線から退き、後進の指導に専念。現在は、CRCの特別顧問を兼務する。

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