2024年04月27日( 土 )

未病状態を把握する検査法を確立し、未病ケアにつなげる(中)

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未病状態を把握する検査法は確立されていない

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 ただし、現状ではこれらの未病状態を調べる検査方法は確立されていません。西洋医学的未病については、先程ご紹介した臨床判断値の問題があります。それには、まず「基準範囲」と「臨床判断値」の違いを理解しておく必要があります。

 基準範囲とは、健康な人が100人いたら、極端に高い数値の2.5%と、極端に低い数値の2.5%を除き、平均値を挟んだ残り95%が含まれる範囲を基準範囲とします。基準の母体が健常者の検査結果であるため、基準範囲は検査値を判断する1つの物差しとなりますが、病気の診断やリスク評価のためには用いられません。これに対し、臨床判断値は、特定の疾患の判断基準であり、また、疫学データから将来の発症が予測され、予防医学的見地から医学的アプローチが必要な領域ともいえます。

 臨床判断値でみた場合、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の検査値が超えていると、リスクがあり症状がなくても将来的に何らかの心血管病が起こり得ることが予想できます。ここで問題になるのは、臨床判断値がある検査値は良いのですが、これがない検査値、単に基準範囲だけしかない検査値をどう捉えるか、という問題があります。

 たとえば、脂質異常では「中性脂肪は150mg/dl」「LDLコレステロールは140mg /dl」などと臨床判断値が設定されていますが、その他の多くの検査項目は、臨床判断値がありません。さらには基準範囲を超えている場合では、何らかの病気があることが予測されますが、何の症状もない場合はどう対応するのか、ということになります。

 また、高齢者の検査値の基準範囲となると、もっとやっかいです。今は65歳未満を想定して設定されていますが、高齢者のなかには、75歳でも元気な人もいれば、65歳で老化が進んでいる人もいますので、一括りに高齢者と捉えることに無理があります。

 基準範囲を算出するには、一定数の基準個体を選ぶ必要がありますが、高齢者の場合、選定条件を厳しくして元気な人だけに限ると、該当者が少なくなってしまい、十分な数の基準個体が得られなくなります。かと言って選定条件を緩くすると、老化で身体機能が著しく低下した人や潜在的な疾患をもつ人が含まれてしまい、基準範囲が広くなってしまいます。

 このように高齢者の検査値については、異常かどうかを判断する尺度を設定することが難しいのです。加えて個人の“揺らぎ”の問題もあります。朝と夜とでは血圧値が変わりますし、日によっても測定データは変化する。つまり、時間の経過とともに変動する値をどう評価するのか。それを判断するための指標も必要になります。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
一般社団法人日本未病システム学会 理事長 吉田 博 氏

1987年、防衛医科大学卒業。96~98年、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部留学。2003年、東京慈恵会医科大学内科学講座講師。07年、同大学臨床検査医学講座准教授。10年、同大学付属柏病院副院長。13年、同大学臨床検査医学講座教授。代謝栄養内科学教授兼任。
専門医:日本内科学会(認定医、総合内科専門医、指導医)、日本循環器学会(循環器専門医)、日本動脈硬化学会(動脈硬化専門医)、日本臨床検査医学会(臨床検査専門医・管理医)、日本老年医学会(老年病専門医・指導医)、日本臨床栄養学会(認定栄養指導医)、日本未病システム学会(未病医学認定医)、日本臨床薬理学会(特別指導医)。

 

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