2024年04月26日( 金 )

ソフトバンクとライン経営統合の背景とインパクト(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 危機感を覚えたLINEは、新しい試みとしてLINEフィナンシャルという子会社を設立する。今後キャッシュレス市場は巨大になることが予想されているので、LINEは新しい市場で勝負をしようとしたわけだ。しかし、本社のネイバーにもLINEにもフィンテックの専門家が皆無に近い上に、金融業界はとても保守的で、なかなか動かない日本政府と、さらに楽天などの手ごわいライバルも存在しており、LINEが思うままにシェアを伸ばしていくことは難しかった。

 このような状況下、初期投資費用は膨らみ、2018年第1四半期のLINEの営業利益は、前年同期対比で69%も減少した。その結果、LINEはLINEペイのマーケティング費用を賄うため、転換社債を発行することになる。しかし、それでも事業はまだ軌道に乗らず、LINEは2018年の決算で、はじめて赤字を計上することになる。親会社のネイバーもLINEに資金協力をしたことで、親会社も財政的に厳しくなっていた。それで、LINEとしては資金を提供してくれる協力者が必要な状況だった。

 また、ネイバー創業者の李は、日本のポータル市場に長年の夢をもっていた。ネイバーは2000年11月にネイバージャパンを設立し、日本市場にチャレンジしたが、無念にも5年後に撤退することになる。ネイバーは2007年に再びネイバージャパンを設立し、今回はメッセンジャーサービスを展開し、成功をおさめた。その当時はメッセンジャーサービス分野にライバルがいなかったので、LINEは成長に成長を重ね、業界1位となる。しかし、LINEはポータルで一位になったわけではないので、今回の統合はその夢を実現する1つの方法でもあるのだ。

 一方、ソフトバンクGは共有オフィス大手「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーの上場失敗で、2019年度中間決算で巨額赤字を計上するなど、これまでの拡大路線に行き詰まりを見せている。ソフトバンクはこのような時期に新しい賭けをすることで、流れを変えようとしているのではないだろうか。

 ヤフーは、パソコン時代のユーザーが多い反面、LINEは20代中心の若いモバイルユーザーが中心になるので、補完関係になり得る。それに、キャッシュレス時代を見込んだ時、数を増やして新しいビジネスモデルを模索することは必須である。さらに、今後最も有望な市場である東南アジアでも、両社はそれぞれの基盤をもっているので、これを統合できれば、中国のIT大手企業とも互角に勝負ができるようになる。このような背景のもと、今回の統合話は進められている。

 最後に、両社の経営統合の展望について考えてみよう。両社が統合して中国のアリババ、テンセントのようにネットショッピング、メッセンジャー、ポータル、キャッシュレス決済を実現することを狙っている。とくに、決済サービスに両社は力を入れていくことなるだろう。なぜかというと、日本のキャッシュレス決済導入率は中国や韓国と比較すると低く、市場は導入期で、まだまだチャンスはある。

 中国のアリババ集団とテンセントはアリペイ、ウィチャットペイで今後東南アジアを攻略しようとしている。なぜならば東南アジアでの成功は、世界進出の試金石になり得るからだ。

 両社が経営統合することによって、中国企業のライバルとして対抗できるようになるだろう。両社の利益が一致した今回の経営統合話が、今後どのような展開になるのか興味深い。

(了)

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