2024年04月26日( 金 )

本格的な規模競争がみえてきた~セブン&アイの米スピードウェイ買収(前)

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戦略的にも大きなリスクをともなう投資

 セブン&アイ・ホールディングスがコンビニ・ガソリンスタンドを展開するアメリカ「スピードウェイ」を買収した。投資額は日本円換算で2兆2,000億円を超えており、2018年に同じくガスステーションを抱えるコンビニ「スノコLP」の1,030店を買収したときの投資額3,400億円とは文字通りケタ違いだ。

 この買収は、戦略的に見ても大きなリスクをともなう投資に違いない。1店舗あたりの取得コストも「スノコLP」の3.5億円あまりに比べて、5.6億円と増加している。新たな試みに慎重なセブン&アイが今回の投資に踏み切ったのは、おそらく「明日を見通せない従来型小売業の漠然とした不安」によるものだ。

 従来型の大型小売業は、GMSのみならず、レストラン、コンビニも含めて大きな過渡期を迎えている。いわゆる「企業の寿命30年」だ。業態の陳腐化、経営の老化がこの寿命説の根拠となっているが、それらに加えて、少子高齢化、国内のオーバーストアという難題もその肩に重くのしかかっている。

 イオンやセブン&アイなど、今も生き残る小売業グループはその30年を何とか乗り切った企業であるが、しかし上記のような呻吟(しんぎん)のなかにいる。祖業の小売はすでに利益を生み出さなくなって久しく、金融、不動産などの異業にその利益を頼っているため、否応なく「新たな世界」に踏み出す戦略を取らざるを得ないのだ。

米スピードウェイ買収の理由

 しかし、「新たな分野」といってもそう簡単には見つからない。今の大手小売業の経営者たちは成功体験を基本にした行動形態で今の地位に就いたため、未経験者とは異なり半ば無謀に漠然と「新たな分野」の展開を考えることは難しい。今まで築いてきたものを否定するのは自分の歴史を否定することでもある。かつて鈴木敏文氏や岡田卓也氏はそれをやってのけたが、普通の人間にできることではない。 

 セブン&アイの「スピードウェイ」の買収もその延長にあるように見える。その理由は、2兆円を越す投資額とは、新事業がうまくいかなければ本体の屋台骨を揺るがすほどの規模だからだ。それでもあえて投資に踏み切ったのは、グループを取り巻く先の見えない経営環境が原因だろう。

 誰もが知るように、国内の消費は完全に頭打ちだ。一般にデフレといわれるが今の日本は一般的なデフレではない。消費そのものが変わってしまったのだ。大多数の伝統ブランドは今や虫の息であり、たとえばオンワード樫山などの百貨店ブランドの衰退に如実に現れているように、高単価のファッションブランドが終焉を迎えている。

 クオリティブランドだけではなく、紳士服大手である洋服の青山、はるやまも先の見えない赤字に悩む。好調なユニクロは、従来型アパレルの逆の戦略で「普段着、安い、組み合わせ、短い商品寿命」。安いから買いやすく、長持ちしないから買い替えの頻度が高くなり、組み合わせるから買い上げ点数が多くなることを狙う。

 なかでも「安い」ことは大きなポイントだ。安いものを買う消費者は、高いものを買える消費者よりはるかに多数であり、つまり市場規模が大きい。そう考えると既存大手の戦略は、市場との「ずれ」が生じている。しかし、大きな船にも似た大規模小売業がいきなり方向転換を図るのは容易ではない。大規模小売業は、たとえ方向転換ができたとしても、その先の市場の競争環境がシビアであるため、慣れた道で先行きを模索するほうが良いと考えたのだろう。今回のセブン&アイによるスピードウェイの買収は、いわばその類だ。

(つづく)

【神戸 彲】

(後)

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