2024年04月26日( 金 )

安倍首相退陣後の政局 永田町情報

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を紹介する。今回は、「安倍首相退陣後の麻生暫定内閣および菅危機管理内閣の展望と落ち込む経済の共有構造の展望」について述べる8月24日付の記事を紹介する。


連続在職日数が歴代最長になった8月24日午前、安倍首相が慶応大病院(信濃町)に入った。
8月17日に続いて2週連続の病院訪問は異例。
首相官邸は「先週の受診時に医師から1週間後にまた来るよう言われており、受診は前回の続き」と説明したが、額面通りに受け取る者はいない。

政治家にとって健康問題は機密事項。
日帰りの病院訪問であれば隠密に行ことが普通。
首相官邸に医師を招くこともできる。
往診では対応できない事情があると考えられる。
隠密での行動は週刊誌などに発覚された場合の影響が大きいため、あえて公表していることも考えられる。
いずれにせよ、重大な健康問題が発生している可能性が高い。
病院訪問を公表しているのは、政局転換の伏線を張っている可能性もある。

早期に安倍首相が退陣を表明する可能性を否定できない。
かつて、石橋湛山首相が健康問題を理由に早期辞任を決断したことがあった。
日本政治史の屈折点である。
石橋内閣が長期内閣になっていれば、日本が暗黒史を刻むことはなかった可能性が高い。

拙著『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)
から引用する。

「吉田内閣が造船疑獄事件で退陣に追い込まれた後、公職追放から復帰した鳩山一郎氏が首相の座に就いた。
鳩山一郎氏は米国と一定の距離を保ち、ソ連との国交回復を実現した。
このことによりシベリア抑留者50万人が日本に帰還できたのである。

1956年、鳩山一郎内閣はソ連との平和条約締結寸前まで交渉を進展させた。
ところが、ここで米国が横やりを入れた。「日本が歯舞・色丹二島返還による平和条約締結に踏み切るなら、米国は永遠に沖縄を日本に返還しない」と恫喝したのだ。
日ソ平和条約は締結に至らず、北方領土問題の解決も実現しなかった。
この後、日本は北方領土について、四島が日本帰還との主張を始めた。
米国の差し金による日本の主張の大変化である。

孫崎享氏の著書『日本の国境問題』(筑紫書房)に詳しいが、米国は日本と中国、日本と韓国、日本とソ連が友好関係を構築しないように、国境問題、領土問題において紛争の種を植え込んだ。
これが尖閣、竹島、北方四島の問題である。

鳩山一郎氏首相の後継首相の座を狙っていたのが岸信介氏である。
しかし、1956年12月の自民党総裁選で岸信介氏は敗北した。
米国に対して堂々とモノをいう石橋湛山氏が首相に就任した。
米国は石橋首相の誕生を警戒した。
石橋湛山首相は首相就任に際して「自主外交の確立」を掲げ、対米隷属の修正を目標として明確に定めた。」

「この石橋湛山内閣誕生に関して春名幹男氏は、米国国務省北東アジア部長のパーソンズ氏が「ラッキーなら石橋は長続きしない」と述べたことを記す英国外交文書の存在を明らかにした。
そして現実に、石橋内閣は、この言葉通り、わずか65日の短時間で終焉した。
石橋首相は1957年1月25日、帰京した直後に自宅の風呂場で軽い脳梗塞を発症した。
報道は「遊説中に引いた風邪をこじらせて肺炎を起こしたうえに、脳梗塞の兆候もある」と発表したとされる。
母校早稲田大学で行われた行事に出席し、体調を悪化させたとも伝えられている。
石橋首相は2カ月の絶対安静が必要との医師の診断を受けて、「私の政治的良心に従う」として首相の職を辞した。

石橋湛山氏は昭和初期に、暴漢に狙撃され、帝国議会への出席ができなくなった当時の濱口雄幸首相に対して退陣を勧告する社説を『東洋経済新報』に執筆していた。
国会に出ることができない自分が首相を続投すれば、社説での言説との矛盾が生じるとして首相辞任を決意したと伝えられている。」

重大な健康問題が存在するなら、国政に遅滞が生じることは免れない。
安倍首相が辞任を表明するなら、日本の政局は重大局面を迎える。
衆院の任期満了が1年後に迫る。
どのようなかたちで次の衆院総選挙が実施されることになるのか。
安倍政治NOの考えを持つ日本の市民は、この機会に日本政治の刷新を図らねばならない。
そのための具体的な構想を構築し、直ちに実行する必要がある。

永田町筋から想定されるシナリオが伝わってきている。
安倍首相辞任後、麻生太郎副総理兼財務相が暫定的に首相職を襲う可能性がある。
自民党は総裁選を前倒し実施する。
菅義偉氏、石破茂氏、岸田文雄氏などの出馬が予想される。
党員投票のない、国会議員のみによる投票によって新しい総裁が選出されることになる。
菅義偉氏は自民党の二階俊博幹事長との連携を深めており、多数派工作によって菅義偉氏が「危機管理内閣」を担う首相に選任される可能性がある。

コロナ問題に揺れる日本。
首相の突如の辞任を受けて、「危機管理」を前面に打ち立てる。
内閣の布陣を変えず、当面を「危機管理内閣」が担う。

衆院総選挙は2021年秋までに実施されることになる。
2021年に入れば、タイミングを計ることが難しくなる。
東京五輪が中止に追い込まれる可能性を踏まえると、2021年春から秋の総選挙は自公に不利に働くと考えられやすい。
そうなると、2020年末ないし、2021年1月の通常国会冒頭での解散、総選挙の可能性が浮上する。

2020年7-9月期のGDP統計が11月16日月曜日に発表される。
年率27.8%のマイナス成長を記録した4-6月期の反動で、経済成長率は大幅プラスを記録する可能性が高い。

コロナウイルス感染症の感染が落ち着いていれば、GDP統計発表に合わせて衆院を解散し、12月に総選挙を実施する可能性がある。
12月13日または27日の投票日設定が有力視される。
1月以降に投票日を設定することには大きなリスクがある。
コロナウイルス感染症の感染拡大第2波が襲来する可能性があるからだ。

そもそも安倍内閣が巨大補正予算を編成して、GoToトラブルキャンペーンなどを強引に推進してきた第一の理由は、自公に癒着する業界団体に選挙買収資金としての財政資金をばら撒くことにあると考えられる。
貴重な税財源であるから、透明公正に、広く国民に行き渡るように財政資金を投下すべきだ。
ところが、安倍内閣は公平、公正、透明な財政資金配分を徹底して嫌う。
できるだけ不公平に不公正に、透明でない方法で財政資金をばら撒くことに腐心する。
選挙の際の票とカネにつなげるには、この方法が有効であると認識しているためだ。

第一次、第二次の補正予算の規模は合計58兆円だ。
この規模の財政政策を実施するなら、
4年間の消費税税率5%への引き下げ、
条件なし1人10万円給付、
を実施できる。
極めて透明、公正、公平な財政政策実施である。

コロナで生活に困窮する人を支えるには、公的扶助制度を拡充することが最重要になる。
生活保護制度が存在するのに、受給資格がありながら受給していない人が8割以上である。
公的扶助利用は憲法が保障する生存権に基づくものであり、国民がもれなく適正に権利を行使することが求められる。

生活保護制度を「生活保障制度」として再確立することが急務である。
「生活保障」の水準を大幅に引き上げることが、社会における困窮者を救済する基本に置かれるべきだ。
コロナで立ち行かなくなる事業が多くの事業分野で発生する。

経済の供給構造の転換が迫られる面も浮上する。
そのときに、旧来の事業構造を無理やり支えようとすることは、事業構造の転換を妨げる要因になる。
重要なことは事業を支えることではなく、事業を担う人々の生活を支えることだ。
人々の生存権を確実に支える一方で、経済構造の転換を阻害するのではなく、促進することに政策エネルギーを注ぐべきである。

早期に実施が予想される衆院総選挙。
この選挙で、日本の政治構造の刷新を図らねばならない。
そのためには、安倍政治NOの考えを共有する政治勢力と市民が大同団結することが必要不可欠だ。
基本政策公約を明確にしたうえで、この政策を共有する大きな塊を創設する必要がある。
合流新党には重大な欠陥が多くあるが、それでもこの党をも生かして、大きなうねりをつくり上げる必要がある。
「政策連合」による次期衆院総選挙大勝利を勝ち取らなければならない。


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植草一秀の『知られざる真実』

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