2024年04月27日( 土 )

利権まみれの日本財政構造

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を紹介する。今回は、「コロナ禍で政府が本当に支援しなければならない人々、事業者に財政資金が配分されず、政治勢力と癒着する特定の事業者に恣意的に配分され、政治家がキックバックを受ける構図が見られる」と訴えた10月13日付の記事を紹介する。


財政活動は政治の中核。
私たちは選挙で議員を選ぶ。
国会の議席配分によって内閣がつくられる。

内閣が行政を担うのだが、重要事項を決定するのは国会だ。
国会は立法府と呼ばれ、法律を制定するが、国会の役割はそれだけではない。

もう1つ最重要の仕事がある。
予算を決めること。
この予算を執行するのが内閣だ。

政治の最大の役割は法律と予算を決定して、これを執行すること。
法律の制定、執行も重要だが、私たちの暮らしに直結するのが予算の編成とその執行なのだ。

政治活動の中核が財政活動である。
2020年度の一般会計当初予算規模は103兆円。
これが国の予算だ。

支出のうち、23兆円が国債費、16兆円が地方交付税である。
両者を差し引いた部分が政策的な支出になり「一般歳出」と呼ぶ。
20年度の一般歳出規模は62兆円。
このなかの36兆円が社会保障関係費である。

社会保障関係費を除く政策支出は合計で26兆円。
予算規模103兆円と政策支出26兆円に大きな落差がある。

20年度はすでに二次にわたる補正予算が編成された。
第一次補正が26兆円、第二次補正が32兆円。
これらの支出は基本的に新規の政策支出だけ。

103兆円の本予算に比べると小さく見えるが、当初予算のなかの政策支出26兆円を基準にすると、その2倍以上の政府支出追加が決定されたことになる。

コロナで日本経済が苦境に陥っているのだから、財政政策を発動すること自体は間違っていない。
しかし、58兆円もの巨大な国費が投下されている。
これだけの巨大予算を投下するなら、透明、公正に資金配分を決めなければならない。

ところが、これがデタラメなのだ。
アベノマスクに466億円が計上された。
GOTO事業に1.7兆円が計上された。
いったい何が起きているのか。

官僚機構が利権予算の分捕り合戦を演じている。
安倍内閣に至っては予備費に10兆円を計上した。
自分たちの小遣いに10兆円を確保したようなものなのだ。

GoTo事業では各都道府県に10~30程度しか存在しない人気旅館に予約が集中している。
通常は値引き販売しているが、大型政府補助が付くために定価販売や、割高宿泊商品が新たに組成されて販売されている。

その販売が沸騰して21年1月末まで全室満室の旅館が続出している。
他方で低価格帯の宿泊商品を販売する宿泊事業者には新規の注文がほとんど入らない。

政府が本当に支援しなければならない人々、事業者に財政資金が配分されず、特定の一部の人々、事業者に恩恵が集中的に投下されている。
また、複雑極まる制度設計にしたために、膨大な事務経費が発生している。

その事務を請け負っているのが大手旅行代理店などで、こうした大手旅行代理店は本業が極めて厳しい状況に追い込まれ、労働力の過剰が深刻化するなかで、その過剰労働力を稼働させる事業として事務取扱いを活用している。

政治勢力と癒着する事業者がコロナに紛れて巨大な利益を獲得しているわけだ。
こうした事業者が与党国会議員に政治献金で資金を還流する。
要するに、国民の資金が特定事業者に恣意的に配分され、政治家がキックバックを受ける構図が成り立っている。

こうした利権まみれ、利権を軸とする財政構造を刷新するのが本当の「財政改革」ではないのか。

財政支出は、「簡素」「公正」「直接」で執行されるべきだ。
巨大予算で利権王国が形成されていることが最大の問題なのだ。

当初予算における社会保障を除く一般政策支出は26兆円に過ぎない。
これに対して、第一次、第二次の補正予算で追加された資金は58兆円に達する。
政治屋や官僚がカンパしたお金ではない。
国民が拠出する資金だ。
1円たりとも無駄にしてならないお金だ。
アベノマスクに466億円という話を笑い話にしてはならない。

これだけのお金があれば、本当の困窮者をどれだけ支えることができるのか。
Go To TravelにしろGo To Eatにしろ、本当に支えなければならない人々、事業者に財政資金は配分されていない。

事業の事務を取り扱う部分で丸投げ下請などが横行し、濡れ手に粟の中抜き手数料が強奪されている。
これが自公政治の実態だ。

財政資金配分においては、
簡素、公正、直接
を軸にすべきである。

制度を複雑にすればするほど、無駄な経費がかかる。
無駄な経費をかすめ取るために、制度を複雑にしている。
簡素で透明なつくりにすれば、中間で経費をかすめ取る余地が小さくなる。
だからこそ、利権官庁は制度をできるだけ複雑にしように努力する。

この意味で条件なし一律10万円給付施策は良策の1つだった。
その簡素な政策でさえ、執行に長時間を要したのは、日本の行政事務が効率化されていないから。
行政事務が効率化されていれば、一律給付のような施策は短時間で執行できるのだ。

一律10万円給付では格差の問題が解決しないという声がある。
その部分を補正するのが所得税中心主義の税制だ。
給付金を課税対象にすれば、高額所得者の税引き後給付金は少額になる。
累進税率構造を備えた所得税中心の租税体系を有することにより、格差問題に対処できる。

ところが、安倍内閣、菅内閣の方向は真逆だ。
格差を是正する所得税のウエイトを徹底的に切り下げて、格差を拡大させる消費税のウエイトを徹底的に切り上げている。

所得税の場合、所得が増えるに従って税負担率が上昇するはずだが、現実は違う。
収入金額が1億円を超えると、税負担率は低下の一途をたどる。
金融所得に対して20%税率での分離課税が認められているため、金融所得比率の高い超富裕層ほど税負担率が低下する現実が温存されている。

簡素で透明な制度=プログラムを形成する。
財政支出をこのプログラムに従ってガラス張りで執行する。
そして、政府支出を国民に対して直接給付する。

簡素、公正、直接
で財政支出を執行するのだ。

条件なし1人10万円一律給付は1.3億人が給付対象になるから13兆円政府支出だ。
13兆円もの政府支出であるが、極めて透明で、公正、しかも直接の財政支出になる。

消費税の税率をゼロにすると1年間で22兆円の減税になる。
税率5%にするなら1年間で11兆円の減税だ。

消費税減税は所得の少ない人に与える恩恵が大きい。
58兆円もの補正予算を編成したのだから、13兆円の一律給付金と、消費税率5%への減税を4年間実施できる。

利権まみれのGo Toトラブルキャンペーンよりもはるかに優れた施策だ。
10兆円の予備費など論外というほかない。

与党政治屋がこのような施策を選ばないのは、これらの財政政策では政治屋へのキックバックがないからだ。
官僚機構は天下り先への濡れ手に粟の利益配分がない。

だから、簡素、公正、直接の財政政策が嫌われる。
政治を刷新して日本財政を刷新すれば、世の中ははるかに良いものになる。

世の中を良くするために、私たちは選挙を通じて政権交代を実現しなければならない。


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植草一秀の『知られざる真実』

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