2024年04月26日( 金 )

【古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵】バルザックの言葉に学ぶ〜忍耐は仕事を支える最強の資本である〜

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リアリズム小説の祖で類稀な幻想家

中島 淳一 氏 モームに「天才と呼ぶにふさわしい」と言わしめたフランスの作家バルザック(1799〜50)はトゥールに生まれる。生後すぐに近郊に住む乳母に預けられる。その後、寄宿学校に入れられ、孤独な少年時代を送り読書三昧にふける。

 母が面会に訪れたのは2度だけであった。母からの極度の愛の欠乏が、その後の人生における女性遍歴につながったとされる。15年パリ大学法学部に入学。法律を修めるも文学を志し、小説、戯曲を乱作。一方、25年から出版業や印刷業などを起こすも失敗、膨大な借金を背負う。

 負債を返済するために本名で書いた『ふくろう党』で認められ、以後驚異的な勢いで数多くの作品を発表。35年には代表作となる長編小説『ゴリオ爺さん』、翌年には傑作『谷間の百合』を書く。

 50年に、18年来の恋人、ポーランド貴族のハンスカ伯爵夫人と結婚するも、長年にわたる心身の酷使がたたったのか、わずか5カ月後にパリで病死、51年の生涯を閉じる。リアリズム小説の祖とされるだけでなく、悪徳から神性に至る壮大なイリュージョンの創造を試みた類稀なる幻想家としても評価されている。

無意識を支配する権威との戦い

 忍耐は仕事を支える最強の資本である。あらゆる条件が整っていたとしても、仕事を完遂させるものは結局のところ忍耐に尽きる。偉大な意志の力なしには偉大な才能を発揮することができないように、忍耐力が欠如した人間は何も完成することはできない。すべての幸運は勇気と決断力に左右される。

 人生の幸福感は仕事を完遂することによって得られる。慎み深さは肉体の良心というべき天使であり、密かに人格の成長を促す。日々の習慣は精神を形成し、精神は顔つきを変える。

 女は男を陽気な凡人にもするが、孤独な天才を生み出す魔力を秘めている。嫉妬とは何か。相手が疑わしくなることではなく、自分自身が疑わしくなることである。愛されることを望むなら、本気で愛する以外には道はない。それが真実の情熱であれば向かうところ敵なしである。愛の炎に包まれる者にはこの世のすべてが愛となるのだ。文学とは未知の自分自身に出会わせてくれる旅路であり、魅惑に満ちた無数の扉である。

 芸術の使命は自然を模倣することではない。自然を創作的に表現することである。人生もしかり。己れの魂の叫びのままに創作する官能的な一編の抒情詩である。

 女のなかには天使と野獣が住んでいる。女は愛するとき、すべてを許す。たとえそれが道徳に背くことであったとしても。女が愛さないとき、何も許さない。それが正しい行いであったとしても。女は好みの手袋を変えるように、容易に心を変える無邪気で残酷な獣である。

 あまりうちとけ過ぎる男は尊敬を失う。気やすい男は小馬鹿にされる。むやみに熱意を見せる男は道化師になりさがる。恋愛は気まぐれで可憐な花だ。種子が風に吹かれ、落ちたところで咲き誇る。過剰な恋の喜びはいかなる悲しみよりも耐えるのが困難である。情熱の炎は女が最初に示した抵抗の大きさに比例するが、永続することはないからだ。熱愛が憎しみに変わることがあっても、憎しみから熱愛に戻ることはない。

 多くの忘却なくして人生は暮らしてはいけないが、あきらめは恐るべき麻酔薬であり、罪深い自殺にほかならない。我々は幸福も不幸も大げさに考えすぎてはいないだろうか。考えているほど幸福でもなければ、かといって決して不幸でもないのだ。

 芸術家は作品のなかで時代の誤りを是正できなくてはならない。単に時代を的確に表現するだけではその責務をはたすことはできない。芸術はいつもすべてのものをのみ込む魔物と戦わなければならない。その魔物とは人間の無意識を支配している権威である。

劇団エーテル主宰・画家
中島 淳一

TEL:092-883-8249
FAX:092-882-3943
URL:http://junichi-n.jp/

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