2024年05月05日( 日 )

「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【1】 人口減少下にあるべき商業とは(中)

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商業空間のつくり方

 商業の構図としては、「統制できているか」がポイントとなる。古くからある商店街も俯瞰して見れば、SCのような組織体として見ることもできる。つまり、それらの組織体を統治できるかどうか。時代の流行やニーズをつかんで戦術を立て、時には厳しい経営判断も下しながらクイックに反映させる。SCではデベロッパーがその役割をはたすが、個店の集まる商店街には、そのガバナンスを効かせることが難しい。古くやせ細った旧店の集まりでは、やはり発信力が弱い。成功している事例もなかには見られるが、現状ほぼ全滅に近い状況は周知の事実だ。

商店街のガバナンス体制はどうなるか(提供:みんちりえ)
商店街のガバナンス体制はどうなるか(提供:みんちりえ)

 最近では、ポップアップストアという形態も出てきている。すでに内装をつくり込んでおき、テナントの看板と機能を入れ替えていくという手法だ。これからの大型商業施設のつくり方とは、少し趣向を変えていく事例も浸透してきている。ここからは、いくつか参考となる事例を紹介していく。

【事例①】“活性化”を目指さない

 瀬戸内海にある小さな離島、いわゆる限界集落といわれる場所で、独自の地域経済をつくろうとしている取り組みがある。「くらしを、自分たちの手に取り戻す」をミッションに、介護、農業、教育、テクノロジーの4事業を展開する(一社)まめなは、広島県呉市の久比地域で独自の経済圏を構築している。この場所の深刻な空き家問題や高齢化問題に立ち向かうなかで、空き家を宿として活用してまちのコミュニティを再生するイタリアのAlbergo Diffuso(アルベルゴ・ディフーゾ)()のようなかたちを構想した。地元の酒蔵で開発したオリジナルの日本酒をハブに、空間と人とモノで地域を支え合う構図だ。

独自の地域経済を瀬戸内海でめざす「mamena」HPより
独自の地域経済を瀬戸内海でめざす「mamena」HPより

 たとえば、小さな医院を自由に集まれる食堂に改装し、介護士や看護師がウェイターとして働き、高齢者の集いを見守る。そこには「無理に活性化を目指さない」という静かな意思が通っている。単に地域の資源を売って儲ける、というモデルは持続可能ではない。地域に収益を還元するエコシステムをつくっていくことこそが、ビジネスを永く続けていくことができるという取り組みだ。

 この地域には、従来の資本主義社会の延長ではなく、生きること、暮らすこと、働くことを根本から考え直していきたい、と考える10代、20代のさまざまなバックグラウンドをもった人たちが集まってきているという。グローバリズムによって広がりすぎたスケールを、少しスモールに。自分軸のスケールに取り戻すことで、地域経済の持続と存続を支えているのだ。

※Albergo Diffuso(アルベルゴ・ディフーゾ)とは、イタリア語で「分散したホテル」という意味。地域の廃屋や空き店舗をリノベーションし、レセプション、客室、食堂などの機能をそれぞれの棟に分散させ、“まち”をまるごと1つのホテルに仕立てた地域文化一体の経営手法。まちおこしは、外からのテコ入れや起爆剤では意味がない。大きなハコをつくってそのなかだけ賑わっていても意味がない。今存在している家、人、文化に血を通わせていかなければ持続可能な再生にはならないという基本理念の下、まち本来の景観を維持しながら地域住民が一体となり旅人をもてなす仕組み。まちのなかに点在している空き家を1つの宿として活用し、“まち”をまるごと活性化しようというもの。 ^

アルベルゴ・ディフーゾ(HPより)
アルベルゴ・ディフーゾ(HPより)

松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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