鎌倉・空き家再生ファンドで住民参加型のまちづくり(前)
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空き家再生プロジェクト
全国で増え続ける空き家問題を解決するきっかけは、住民参加型のまちづくりにあった。空き家や空き店舗をリノベーションで再生し、地域で活用している(株)エンジョイワークス取締役・松島孝夫氏は、「空き家を改修することで何をつくりたいのか、地元の人とともに考えてイベントを開催し、興味をもった人が再生プロジェクトに参加できる『場』をつくっている。たとえば、自分でペンキを塗った壁や使い道のアイデアを出した空間など、人は自分が関わったものをいつまでも覚えていて、愛着を感じるものだ。地域の人々がリノベーション完了後も『自分ごと』としてとらえ、再生した施設を長く使ってもらえるよう工夫している」と語る。
エンジョイワークスは、神奈川県鎌倉市の空き家や商店街の空き店舗など遊休不動産をリノベーションして、子会社の(株)グッドネイバーズが街の人々とともに、カフェやギャラリー、設計事務所などからなる複合施設「HOUSE YUIGAHAMA」、シェアオフィス「Satellite YUIGAHAMA」などとして活用している。住民に再生プロジェクトに興味をもって参加してもらい、多くの人が体験を共有して共感できるプロジェクトを運営することで、住民同士のコミュニケーションを活発にして、地元の新たなコミュニティを生み出す舞台を目指し、まちに人が集まる場をつくっている。
ほどよい都心との距離感
エンジョイワークスが空き家の再生を手がける神奈川県湘南エリアの鎌倉市や三浦郡葉山町は、電車やバスで東京から約1時間~1時間半の距離だ。「湘南の海が近い」「自然が多い」場所でもあるが、なかでも、もともと住んでいる人と移住者がうまくつながることができる成熟したコミュニティが住みやすさの理由だという。
大都会ではすでに都市計画がなされた地域が多いため、いち住民としてまちづくりに参加するには距離があるが、ここでは距離がもう少し近い。また、首都圏らしくほどよい距離間をもって付き合う文化がありながら都心とも近いため、都内からの移住者も多いという。プライベートを大切にしてお互いに認め合う雰囲気があり、店舗オーナーや芸術家などの自由業をはじめ、さまざまな仕事をしている大人が集まっていることが、このまちらしさをつくっている。また、コロナ禍で生活スタイルを見直すケースもあり、東京都心部からの移住者が鎌倉・葉山の物件を探すケースも増えているという。
鎌倉や葉山は住宅地として人気があり、空き家のままで放置される住宅はそれほど多くはない。その一方で、商店街は空き店舗が多く、その活用が課題になってきた。そこで、エンジョイワークスでは、鎌倉の由比ガ浜通商店街の古い空き店舗9件をリノベーションして事業別のオフィスとして利用している。
松島氏は、「東京で創業し、2011年に鎌倉市へ移転した当社も、鎌倉で物件探しを始めた当初はよそ者だったが、地元の人とのコミュニケーションを大切にして親交を深めて信頼を得ることができ、ようやく借りることができた。今は、商店街の空き店舗を改修したカフェや仕事場の提供なども行っているが、今後は地元のサポートを受けながら、資金調達からリノベーション、店舗開業までプロデュースやサポートを行うことで、地域に根付いて商店街の再生に取り組む人を増やしたい」と語る。住民が主体となる空き家、空き店舗の再生を進めるため、多くの人々にプロジェクトに共感してもらえるようイベントを通して対話を積み重ねている。
(つづく)
【石井 ゆかり】
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