2024年03月19日( 火 )

盛況な「子ども食堂」にみる生活困窮者の実態(前)

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大さんのシニアリポート第114回

 主催する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)で開催されている子ども食堂が盛況である。基本的に生活弱者救済のための取り組みからいえば、生活困窮者層が増えていることを意味する。盛況であることは決して嬉しいことではない。基本的に小中学生を相手にするため、高校進学後は適用外となる。食堂を利用できなくなった子どもたちが満足できる食生活を送っているかといえばそうではない。切り捨てられただけだ。希望者が後を絶たない現状を考慮すればいたし方のないことではあるが、どこかやりきれない思いが残される。

サロン幸福亭ぐるり    「ぐるり」の近くに通称ニュータウンという街がある。今から45年ほど前につくられた街で、当時は会社役員や大学教授、弁護士、医者などが多く住む裕福な街だった。あれから45年。街の住民の顔は大きく変わった。初期の入居者は高齢化し、施設入所や別に暮らす子どもたちとの同居を余儀なくされた。必然的に空き家が増え、そこを更地にして新築の戸建が二軒立つ。そこに新しい住民が入居する。住民の総数は変わらないが、新住民はかつてあった自治会を主体とするいくつかの相互扶助組織には加わらない。

 ある日、旧住民から緊急救済の要請が社会福祉協議会(社協)に入った。「生活費がない。助けてほしい」という。手元にはたった350円しかなかった。かつての裕福な夢の街ニュータウンは、大きく変貌した。厚生年金を満額支給される住民と、両親と死別し、パートやアルバイトなどの非正規労働者という生活困窮者との二極化が急速に進んでいる。

 新型コロナウイルスが困窮に拍車をかける。仕事も給与も激減する。2020年3月、国は「特例貸し付け制度」を設けた()。最大20万円の「緊急小口資金」と、最大60万円を3回まで貸す「総合支援資金」という二種類の支援策を設けた。合算すると最大200万円まで借りられる。無利子だが全額返済が義務づけられている。「緊急小口資金」は借りてから2年以内、「総合支援資金」は10年以内に完済しなくてはならない。

 借り手の一部には多重債務者がおり、入金された支援金は、そのままサラ金などの街金業者の手に渡り、手元にはほとんど残らないことになる。返済期限がまだ先なのに、すでに自己破産を確実視される人が6月時点で約5,000人。総額20億円にまで膨らんでいるという。

 「生活困窮者に多額の負債を負わせることはいかがなものか」という批判がおこった。さすがに国としてもこの現状を看過できなくなり、「緊急小口資金」(最大20万円)と「総合支援資金」(最大20万円×3カ月)、最大80万円まで(複数人世帯で一定の条件を満たした場合。生活保護受給者は対象外)と支給額を下げた。ただ、もともと生活基盤の脆弱な世帯である。当然上限を借り切っても通常の生活を支えることができない。その場合には、「生活困窮者自立支援金」という制度がある。これは3人以上世帯の場合、月10万(最長6カ月)が支給される。ただし、収入や資産要件のほか、ハローワークなどで求職活動をしているといった一定の要件を満たす必要がある。窓口は社協である。

 それでも生活の維持が困難だと思われる世帯には、生活保護の申請を出すようすすめているとう。現在(7月9日時点)、約328万4,000件、総額累計1兆4,000億円の貸し付けが決まっている。目を見張るような膨大な金額である。この金額を必要としている国民(世帯)が存在しているという事実を見逃すことはできない。

サロン幸福亭ぐるり    借りた金は返さなくてはならない。早い人では2023年1月から返済が始まる。返済金額は最大80万円借りた人の場合、当分は月約1万3,000円の返済となる。住民税が非課税の世帯には返済が免除される。各社協に申請することが義務づけられている。支援金額を下げたとはいえ、特例貸し付けを使った人のなかには、カードローンを利用したりして多重債務状態に陥っている人もいる。「特例」という文字があるのは、「一時的」「とりあえず」という考え方での支援だ。すべて税金である。これではわずかばかりの延命に手を貸しただけに過ぎない。無利子貸付制度が生活再建に結びつかない現実がそこにはある。

(つづく)

※朝日新聞2022年7月21日「(くらし相談室)コロナで困窮…『特例貸し付け』とは」参照。 ^


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

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