2024年04月26日( 金 )

令和の大本営:五輪組織委員会

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「五輪組織委員会は五輪の観客についての判断を先送りしたが、無観客開催すら決定できない統治能力欠落は目を覆うばかりだ」を訴えた4月22日付の記事を紹介する。

菅内閣は3月21日をもって緊急事態宣言を解除した。
このとき、すでに感染は再拡大に転じていた。
感染拡大の先行指標は人流の拡大。

人流は12月31日に最低値を記録。
1月末まで低位推移を続けたが、2月中旬から増加に転じた。
大阪府は先行して3月1日に緊急事態宣言を解除した。
これらの変化を先取りするかたちで2月中旬以降、人流が明確に拡大に転じた。

3月は歓送迎会、卒業式、花見、行楽などで季節的に人流が急拡大する。
このタイミングで緊急事態宣言を解除すれば人流拡大に拍車がかかる。
大阪府の3月1日の緊急事態宣言解除、すべての地域での3月21日の緊急事態宣言解除が感染再拡大をもたらすことは明白だった。

さらに、重大なもう1つの要因があった。
変異株の出現。
E484K、N501Yという2つの変異株が流入した。

12月中旬に英国で変異株が確認された。
直ちに、最大級の水際対策が必要だった。

この水際対策を妨害したのが菅義偉氏。
12月28日にザル対策を示し、抜本策を先送りした。
強い批判に遭遇して、1月13日にようやく抜本策を実施した。
致命的な2週間の遅れだった。

変異株は感染力が強く、重症化リスクも高い。
その変異株が感染拡大の中心に置き換わった。
3月の緊急事態宣言解除は致命的誤りだったといえる。

国会で菅義偉氏が追及された。
「本当に解除して大丈夫なんですか」

これに対して菅義偉氏は
「大丈夫だと思います」
と答えた。

菅首相は緊急事態宣言解除に際して3月18日に記者会見を行った。
https://bit.ly/2RPxy8x

記者会見で菅首相は次のように述べた。
「いずれにしろ、再び緊急事態宣言を出すことがないように、こうした5つの対策をしっかりやるのが私の責務だというふうに思っています」

「5つの対策」とは何か。
記者会見で菅義偉氏は次のように述べた。

「第1の対策の柱は、飲食の感染防止です。
第2の柱は、変異株への対応です。
第3の柱は、感染拡大の予兆をつかむための戦略的な検査の実施です。
第4の柱は、安全、迅速なワクチン接種です。
第5の柱が、次の感染拡大に備えた医療体制の強化です」

「5つの柱」というものの、感染を抑止する方策はワクチン接種以外に示されていない。
そのワクチン接種も進捗率はわずか1%。

第1の柱の飲食については、規制を緩和した。
第2の柱の変異株対応というのは、変異株検査を実施する比率を10%から40%に引き上げるというもので変異株の感染を防ぐものでない。
第3の柱は検査の拡大とされたが、これも抜本的な対応はまったく取られなかった。
第5の柱の医療体制強化は十分に進展していない。

感染者が増加すると、たちまち医療崩壊が生じる情勢は旧態依然のまま。
要するに、「再び緊急事態宣言を出すことがないようにするのが私の責務」と述べながら、感染対策強化でなく、感染対策緩和を実行して、いま再び緊急事態宣言発出に追い込まれた。

「経過は大切だ、しかし、結果がすべてだ」
という言葉がある。
菅義偉氏は引責辞任を決断すべきだ。

他方、IOCのバッハ会長が「緊急事態宣言は五輪開催に関係がない」と発言している。
IOCは「威力で経済的利益を追求する集団」と化しており、日本政府はIOCを反社会的勢力と認定すべきだ。
IOCに日本国民の不利益を強要する権利も権限もない。

今回の感染拡大が過去の感染拡大と異なるのは、感染の中心が変異株に移行していること。
感染力の強さが指摘されている。
また、基礎疾患がない若年層が重症化するリスクが上昇している。
低年齢層の被害が拡大する可能性もある。

感染は飛沫による場合が多いとされる。
多人数でのマスクをしない、会話をともなう飲食機会のリスクが高い。
このリスクを減じるために人流抑制が重視されている。

大規模商業施設や大規模遊興施設の営業自粛が重要になるのは、これら施設の利用者が多人数による会話をともなう飲食を行う蓋然性が高いからだ。
野球やサッカーの興行にリスクがともなうのは、同様に、観客が観戦の前後に多人数での会話をともなう飲食を行う蓋然性が高いからだ。

必ずしも、大型商業施設や野球スタジアム、サッカースタジアムの内部で感染するリスクが高いわけではない。
これらの施設利用者が多人数で会話をともなう会食を行う蓋然性が高まるから警戒が必要なのだ。

これは五輪にもそのまま当てはまる。
有観客で五輪が実施されれば、大規模な人流が発生する。
その大規模人流にともない、多人数での会話をともなう会食が行われる蓋然性は極めて高い。
自粛を要請しても完全に守られる保証はない。

どのような行為の感染リスクが高いのかを踏まえ、予防的対応を取らなければ感染収束を実現することは難しい。
ゴールデンウイークに東京都、大阪府、京都府、兵庫県に緊急事態宣言を発出したとき、一体何が起こるのか。
対象から外れた地域での人々の行動が感染拡大をもたらす可能性が極めて高い。

該当地域に居住する市民は、緊急事態宣言対象外地域に移動して休暇を過ごすのではないか。
対象地域外で多人数による会話をともなう会食が行われれば、緊急事態宣言対象地域外で感染が急拡大する可能性がある。

緊急事態宣言対象地域に居住する市民の移動に対する制限がかかるのかどうかが重要になる。
対象地域の住民が全国各地の行楽地に移動して休暇を過ごせば、感染が全国規模で拡大するリスクが高まる。

昨年の場合、人流が最低値を記録したのは5月5日。
緊急事態宣言が全国で発出されたため、全国で人流が急低下した。
最低値を記録したのが5月5日だった。

ゴールデンウィークの人流が完全に抑制された。
新規陽性者数が最低値を記録したのが5月25日。
ちょうど3週間後だった。

今回、4つの都府県に限定して緊急事態宣言が発出されるとき、人々がどのような行動を取るのかを慎重に考察する必要がある。
対象地域から近県に移動して飲食や行楽を楽しむ市民が極めて多いのでないか。

関東の場合、神奈川、千葉、埼玉の隣接3県は東京都と一体の大都市圏を形成している。
東京都に現住所を持つ市民だけが行動を制約され、居住地から一歩移動した隣接地の市民が行動を制約されなければ、理不尽と考えるだろう。

市民は他地域に移動して飲食などを行うことになるだろう。
また、新幹線や航空機などを利用してほかの道県に移動して大型連休を過ごす人も出現するだろう。

緊急事態宣言対象地域の市民が大量にほか道県に移動して休暇を過ごせば、変異株が日本全国に一気に拡散される。
県境を超える移動についての制限が課されないなら、緊急事態宣言発出が感染全国拡散の引き金を引くことも考えられる。

五輪組織委員会は五輪の観客についての判断を先送りしたが、戦争末期の大本営と似ている。
第二次大戦の終結を遅らせて国民に甚大な被害を与えた失敗が繰り返される。

無観客すら決定できない統治能力欠落は目を覆うばかり。
野球やサッカーの関係者も目先の金銭を追うのでなく、感染収束優先の視点で無観客または興行延期を速やかに決断すべきだ。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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