2024年04月26日( 金 )

【凡学一生のやさしい法律学】関電報告書の読み方~関電疑獄を「町の法律好々爺」凡学一生がわかりやすく解説(11)

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内部調査報告書の逐条解説

(1)内部・外部調査委員会の法律上の問題点

 株式会社法では法令順守にかかる責任分担を法律で明確に規定している。法令遵守が問題になるのは理の当然として目的業務遂行に関して発生した事象に関するものであるから第一義にそれは目的業務の遂行責任機関である取締役会にある(自浄能力)。しかし、取締役会が談合や結託などにより自浄能力を喪失することはむしろよくある現象であり、また、違法業務、違法行為に関与した取締役の員数が、正常な取締役会の決議要件をオーバーすることもあり得る。本件も20名の役員重職者による贈収賄事件である。

 自浄機能が働かない場合・期待できない場合を考慮して、監査役・監査役会が設置されている。通常、大会社ではその業務の複雑さと大規模性から、監査役会が設置され、複数の専門法務担当者による組織的、機関的監査が規定されている。関電も当然、監査役会設置会社である。

 臨時的な機関である内部・外部調査委員会は取締役会が設置することができる。問題はその目的・権限である。本件事件は多数取締役による贈収賄事件であるから、取締役会が設置することができる補助機関は事実調査機関に限定される。違法判断機関を設置することはそもそも株式会社法の基本構造、責任分担制度に違反する。責任の有無を判断するのは各取締役の委任契約上の固有義務であり、集合、合同行為の結果である取締役会の義務である。従って、違法判断は違法行為に関連加担しなかった残りの取締役で判断する。定足数に達しなかった場合には仮取締役の選任手続をとらなければならない。

 自浄能力を喪失した取締役会にはもはや適法な違法判断は不可能であり、その場合を考慮して、違法判断について監査役・監査委員会が設置されている。本件内部調査委員会が違法判断をしたこと自体が会社法違反である。しかも関電疑獄においては、監査役会も事前に収賄事実を把握しながら、違法性がない、として取締役会に報告していないとされる。ここまで法令順守の監視会社機関が腐敗していれば、今さら、取締役会が設置する事実調査機関の報告内容などまったく信憑性がない、と断定できる。

 とくに、今回の内部調査機関の委員が、監査役会の委員と重複しているとされるから、同委員会の結論も始めから決まっている。茶番劇という他ない。実際に報告された内容は杜撰な事実認定に基づく恣意的判断であり、当然、「不適切」判断のオンパレードであり、違法判断は故意に完全に否定された。

 なぜ、公然と会社法が規定する法令順守監視制度が無視されるのか。これは日本に公然と流行する「第三者委員会」設置ブームに原因がある。各種委員会設置権限は取締役会にあり、取締役会は判断の公正性と法的専門性を口実にヤメ検弁護士が主導する第三者委員会を設置し、事実調査を超え、違法性判断までも「第三者委員会」に委ねる。そして第三者委員会は決まって、「不適切であるが違法ではない」という結論を答申する。もちろんこれは取締役会が期待する答申であるから、これはまさに「田舎芝居」「猿芝居」「できレース」である。

 時に、第三者委員会が取締役会の期待する答申をしなかった場合にはその答申は無視されるだけである。これが日本の法令順守の実務の実態である。また、第三者委員会の設置は事件を風化させる機能をもち、それも期待されている効果の1つである。関電疑獄においても10月9日に第三者委員会が設置されたが、その答申が出るまで、世論は事実上封殺される。

 事実、国会において、国の法令上の電力会社の管理監督責任が野党によって問われたが、総理大臣は「第三者委員会の答申を待って適切に対応する」と答弁した。これが第三者委員会の法的地位―一私人にすぎないことーを野党が理解していないため、野党はこれ以上の責任追及をストップしてしまった。第三者委員会の横行こそ、日本の法令順守達成の最大阻害要因であり、腐敗である。第三者委員会の委員の引受先(依頼先)がヤメ検弁護士であることは決して偶然ではない。

 国民は第三者委員会の法的地位を知らないため、第三者委員会の力量を勝手に過大評価し、かつ恐れている。法的には関電が私的に調査を依頼した私人であるから、私人以上の調査権限能力はない。たとえば、本件事件の最高級証拠であるM作成の賄賂リストの入手など基本的に入手不可能である。税務当局に押収されているのであれば、検察や裁判所でも入手不可能であり、一民間人・私人に過ぎない第三者委員会に入手など不可能である。

 また、強制的な捜査権や身柄拘束権などなく、関電職員に対する事情聴取すら、当該職員から拒絶されたり虚偽証言説明されてもそれ以上の真実追及は不可能である。そのような第三者委員会に世間の人々は法的無知ゆえに勝手に権威と実力を感じている。まったくの幻想であることを明言しておきたい。何も真実を追求することができないにもかかわらず、いかにも真実追及のプロであるかの姿勢をとって世間を欺いていることがすでに、信用性のない私人(弁護士)と筆者は認識している。違法を不適切といいかえるようなヤメ検を信用することのほうが不思議である。

 なお、本件内部調査委員会の責任委員がヤメ検弁護士であり、関電監査役会の監査役でもあることは象徴的な事実として国民は理解しなければならない。

(つづく)

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